「提言!これからの日本観光」 “新”観光列車考
2019年2月17日(日) 配信
このほど京都市北部を走る叡山電鉄に新しい“観光列車”「ひえい」が登場した。沿線の比叡山と鞍馬山から発する「気」の循環を象徴する「円」にこだわったというユニークな内外装が特長だ。
電車前面に大きく「円」のシンボルを掲げ、車窓もドア窓もすべてにおいて楕円にこだわったという奇抜なデザインが目を引く。車内の座席も観光を重視した特別仕様で一躍人気列車となった。特色は日常のダイヤに組み込まれ、特別な料金なしで定期客も自由に乗れることである。運行時刻は駅に掲示されているので、それを待つ人も多い。ただし、運行区間は出町柳駅、八瀬比叡山口駅間の約5㌔で所要時間はわずか15分、全国最短距離、最短運行時間の“観光列車”ではなかろうか。
同じ京都府で京都丹後鉄道の観光列車に“丹後三兄弟”という新観光列車グループが登場した。「あかまつ」、「あおまつ」、「くろまつ」と命名された3両の気動車で高名なデザイナーによる内外装の“観光列車”である。車内も「松」にこだわり、木のぬくもりを感じさせる。この3両のうち、「あおまつ」は他の2両が車内での供食サービスなどを伴う特別料金、事前予約制の“観光列車”であるのに対し、定期運行ダイヤに入り、すべて自由席で誰でも乗車券、定期券のみの特別料金なしで利用できるのが珍しい。高校生などが豪華な車内で談笑したり、勉強したりしているのも微笑ましい。丹鉄“観光列車”の宣伝役も果たしており、乗車した地元の人が口コミで“観光列車”の話をしているのを聞いて、地元の人たちも有料の「あかまつ」、「くろまつ」も利用するようになったと聞く。
次の例は、千葉県のいすみ鉄道だ。大原、上総中野間、26・8㌔を毎週末に運行する“キハ28・キハ52”観光列車である。キハとは旧国鉄の気動車の記号であり、それをそのまま列車名にも使っている。そして、「26・8㌔の間、あの頃に戻れます」をキャッチフレーズに、いわば懐古調のレトロ列車に仕立てた。したがって、内外装とも、昭和40年代製作当時の旧国鉄時代そのままのボックスシートで、キハ52は自由席で急行券を購入すれば、簡単に乗車できる。
以上の3例に共通しているのは、特別料金なし、予約不要で気軽に乗車できる点である。今、観光列車はJR各社を中心にまさに百花繚乱の盛況で、百種を超える。しかし、そのほとんどが豪華列車や食事付の高度な車内サービスを指向しており、乗車の際もツアー参加型、企画商品型等特別な申込み方法や運賃のほか、特別料金が求められている。有名“観光列車”のなかには乗車に数十万円の支払いが必要なものもあるが、それさえ、抽選制をとるほど好評である。その反面、上記のようないわば大衆観光列車があらわれたことに注目をしたい。“観光列車”も、もはや特別な列車ではなく、気軽に利用できる列車の一形態として定着したとの感慨を禁じ得ない。
日本商工会議所 観光専門委員会 委員