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「街のデッサン(215)」都市バルセロナが持つ未来性 観光関係者のモデル都市

2019年3月2日(土) 配信

美の都市づくりが観光客を美しくする

地中海クルーズで、今回MSCメラビリアに乗るコースを選んだのは、船に乗るゲートがバルセロナからであったからだ。これまでにこの都市を訪れたのは4回、最初はリゾートホテル開発の先駆者・新田恭一郎氏の誘いでヨーロッパの温泉リゾートを1カ月近くかけて廻ったときだった。その後、万博やオリンピックが開催される前の海岸部を中心にした大きな都市開発の計画を視察に訪れて、バルセロナの輻輳する文化の地下水脈の魅力に早くも感染していた。

 近年、もう一つの魅かれる理由がある。それは、「バルセロナ派」といってもよい一群の新感覚的都市小説が生み出されていることにある。例えば、カルロス・ルイス・サフォンの書いたバルセロナを舞台にした「風の影」という小説は2001年に上梓されたが、日本で翻訳されて出回った06年にはすでに世界の37カ国で出版され、販売総数は500万部に達していたという。本の主人公は古本屋の親子で、その子供のダニエルが語り手となる。時代はスペイン内戦を結節点にした前後の35年間程。10歳のダニエルが父親に初めて連れられていった「忘れられた本の墓場」で手に入れた1冊の書物が物語の起点になる。歴史書であり、ミステリー、恋愛冒険小説ともいえるが、訳者によれば「読ませる小説のすべてが内包されている」書物であるといえる。すでに「サフォンマニア」が世界中にいるが、私もその1人だ。

 これ以外にも、バルセロナの中世を舞台にしたイルデフォンソ・ファルコネスの「海のカテドラル」や現代もののエステバン・マルティンらの「ガウディの鍵」などもバルセロナ派の小説といえるであろう。これらの書籍を手にしたら、誰もがこの都市を訪れたくなるに違いない。小説の中の都市だけでなく、現実の都市づくりにおいてもバルセロナは先駆的な手法でまちづくりを進めている。

 空洞化した都市の中心部を、俯瞰的ではなくその局所から、すなわち都市の局部的病巣を逆手にとって、「界隈」と「多孔質化」と「エッジ(縁)」を鍵概念として再生していく手法を取る。そして、近年観光政策における最も重大な課題である「オーバーツーリズム」にも、具体的な施策を行政と民間が手をつないで対応していこうとしている。すなわち、都市ホテルやアパートホテルの新規の建設のコントロールや観光税の多面的な課金、逆に美しい環境の創出により観光客の高次化、選別化という新手法である。豪華客船に乗る前に、私はこれらを体感し、この街から学びたかったのである。

コラムニスト紹介

望月 照彦 氏

エッセイスト 望月 照彦 氏

若き時代、童話創作とコピーライターで糊口を凌ぎ、ベンチャー企業を複数起業した。その数奇な経験を評価され、先達・中村秀一郎先生に多摩大学教授に推薦される。現在、鎌倉極楽寺に、人類の未来を俯瞰する『構想博物館』を創設し運営する。人間と社会を見据える旅を重ね『旅と構想』など複数著す。

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