〈旬刊旅行新聞3月11日号コラム〉観光地の俗化 “小洒落た”装飾が気づかぬうちに
2019年3月11日(月) 配信
最近気になっているのが、どこの観光地に行っても、女性の姿を目にすることは多いが、旅をする男性をあまり見掛けなくなった。
先日、沖縄県の宮古島を旅した。そこでも、カップルや家族連れのほか、女性の1人旅やグループ客を見掛けたが、男性は圧倒的に少なかった。女性が旅行市場をリードしていることを改めて認識した。
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宮古島単独のガイドブックは書店にもなかったので、今回は数年前に石垣島と竹富島を訪れたときに買ったガイドブックが役に立った。
私は旅行する前にはガイドブックを購入し、旅が終わったあとにも捨てずに本棚に並べておく習性がある。地図にホテルの印をつけたり、行きたい場所に蛍光ペンで色を塗ったりしている。「次に訪れたときにもきっと役に立つだろう」と大切にしているが、片づけたがりの妻には評判はすごく悪い。
そのガイドブックには、いつの間にか、たくさんの付箋が付いていた。1ページに2、3枚の割合で、付箋だらけの本はカラフルな熱帯植物のようにも見えた。毎回旅先で「どこに行くか」や、旅のスタイルの違いで妻と喧嘩になるので、私も少し学習をして、「行きたい場所があれば付箋をつけていてくれ」と言い放っていたのだ。
ガイドブック自体が女性向けだったせいか、レストランも、宮古ブルーの海と南国のお洒落な建物の店が多く、付箋が付いているものの大部分が“写真映え”するような店だった。
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レンタカーで来間島へ渡ると、さらに女性客の割合が高くなった。2人組や、4人組の若い女性たちがお洒落な店に次から次に入ってきた。実際、ランチで訪れたレストランには、私を除くと、すべて女性客という状態だった。
「どうしてこんなに女性に人気なのだろう」と考えてみると、タコライス一つとっても、野菜やチーズの見せ方、盛り付ける器、フォークやスプーン、テーブル、ランプのシェードやメニューの手書きの文字まで、一つひとつが小洒落ている。
こういった細部のデザインを少し変えるだけで、こんなにも女性客が訪れるようになるという典型的な店だった。
けれど、正直なところ、この手の小洒落た店の空気はどうもふわふわっとしていて、しっくりと来ないのである。妙に小洒落ているがゆえに、その土地特有の“何か”を薄めてしまっている気がするのだ。それは「本質」といってもいいのかもしれない。
その前日に訪れた宮古島北部の満月食堂は、まったく洒落っ気がなく、絵に描いたような「沖縄の食堂!」だったが、味は絶品で、安かった。妻も大満足だった。飾り気のない店内には地元客や観光客、老若男女がいた。年齢や性差もなく、幅広い層に支持されている「普遍性」を感じた。
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旅館やホテル、レストランもリニューアルすると、その多くが小洒落る。もちろん汚い店よりも、新しく、お洒落な店に多くの客が集まるのは分かる。
しかし、にぎわっている観光地がしばしば俗化して映るのは、次第に素朴さを失い、地域性が薄まったからではないか。
俗化とは、観光客に受けるために施した“小洒落た”装飾が気づかぬうちに、少しずつ積み重なった集合体なのかもしれない。
(編集長・増田 剛)