〈旬刊旅行新聞3月21日号コラム〉イン・アウトバウンドの不均衡 国家間の「観光制裁」のリスクにも
2019年3月21日(木) 配信
麻生太郎副総理兼財務大臣は3月12日、韓国の元徴用工訴訟で日本企業の資産売却などの措置が取られた場合、報復カードとして、韓国人のビザ免除措置の廃止を含む、厳格化も例示した。
国益に絡む外交のギリギリの駆け引きの中で、現実的なあらゆる手段が検討されるべきだと思う。国家間で「報復」の手段を考えたときに、自国の不利益が最小で、相手国のダメージが最大というのが最も効果的だが、この入国ビザの厳格化がどの程度、日本経済にも影響を与えるのか、観光業界はしっかりと考え、さまざまな準備をしておかなければならない。
米国のドナルド・トランプ大統領と、北朝鮮の金正恩労働党委員長との2度目の会談が2月27、28日にベトナム・ハノイで開かれたが、合意に至らなかった。その後、北朝鮮は非核化への交渉を中断する姿勢も見せている。
一時期は融和ムードが漂っていたが、さらに厳しい局面が予想される。このような緊張が高まる東アジアにおいて、日本と韓国の関係は、先に述べた韓国人の入国ビザ厳格化も議題に上がるほど、悪化の一途にある。
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2018年の訪日外国人旅行者数は3119万人。一方の出国日本人は1895万人。韓国からは750万人以上が日本を訪れ、中国(約838万人)に次いで2番目。一方、日本から韓国を訪れた旅行者数は300万人弱だ。日本は現在、トップの中国をはじめ、近隣アジア諸国では、アウトバウンドよりもインバウンドの方が圧倒的に多い状態となっている。
国連世界観光機関(UNWTO)の出典で、日本政府観光局(JNTO)がまとめた17年の「世界各国・地域への外国人訪問者数」ランキングによれば、上位10カ国は①フランス②スペイン③米国④中国⑤イタリア⑥メキシコ⑦英国⑧トルコ⑨ドイツ⑩タイ――の順だ。
11位はオーストリアで、日本は12位。かつて30位前後だった日本がいつの間にか、上位にランクされるようになった。上位10カ国には、アジアでは中国とタイが入っている。中国は6074万人、タイが3538万人のため、20年に目標の4千万人を達成すれば、観光大国(トップ10)の仲間入りも十分考えられる位置まできた。
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観光大国に成長することは素晴らしいことであるが、輸入と輸出のバランスが崩れたところには、経済制裁で狙われる危険性が高まる。
THARD(高高度迎撃ミサイルシステム)を配備した韓国に対し、中国が韓国への団体旅行を制限する「観光制裁」を発動し、韓国の観光産業は未だにその影響を受けている。1億5千万人規模の海外旅行者を有する中国が特定の国や地域への渡航を制限すれば、相手国は大きな痛手となる。一方、日本が韓国に対し検討している入国ビザの厳格化は、中国が韓国に行っている制裁とは異なる構図であるため、自国への経済的な影響も含め、熟慮が求められる。
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入国ビザの厳格化という措置の賛否はさておき、日本も政治と観光を絡めた制裁を他国に起こし得る状況であるということを肝に銘じなければならない。イン・アウトバウンドの不均衡な現状は、危機管理上のリスク要因と捉える視点も必要であり、現行のアンバランスな国際観光政策では、基盤があまりに脆弱だ。
(編集長・増田 剛)