〈旬刊旅行新聞4月1日号コラム〉全国旅館おかみの集い30周年 記念事業に「女将セレクション」創設
2019年3月30日(土) 配信
毎年1月1日に新たな年がスタートし、4月1日に新たな年度が始まる。年に2回、新たな気持ちになる。
しかし、今年は5月1日にさらに大きな節目を迎える。平成が終わり、新たな元号がスタートする。西暦とは異なる、日本独自の歴史的な瞬間を境に、時代のムードも大きく変わり、歴史の新たなページが捲られる。
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節目の年には、新たな試みの機運が高まる。
「全国旅館おかみの集い」(女将サミット)が今年30周年を迎える。30回記念大会は7月1日に、東京・新宿の京王プラザホテルで開催される。30回の節目を記念した事業として、全国の旅館女将約100人による評価制度「女将セレクション」を創設する予定だ。
「女将セレクション」とは、日々おもてなしや立ち居振る舞いなど、「こころ」を体現している旅館女将の目線から、日本の素晴らしい「モノ」を表彰し、広く世の中に発信していく試み。「食」と「美」の2部門で、「こころが伝わる逸品」を広く募集中だ。
優秀賞には、商品のパッケージなどに使用可能な「女将セレクション」のロゴマークも用意している。旅行新聞新社とタナベ経営が実行委員会事務局として同事業を支援する。弊社ホームページ(http://www.ryoko-net.co.jp)にも募集内容を掲載している。
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全国旅館おかみの集いは「女将のための女将による女将の会議」として、1990年3月に京都市内で発足した。毎年100人を超える旅館女将が参加し、著名人や文化人などによる講演や、分科会での意見交換、懇親パーティーなどを通じて女将同士の交流を深めてきた。30年間で、延べ4千人以上の女将が参加してきた歴史あるイベントだ。
阪神・淡路大震災(1995年)や東日本大震災(2011年)などが発生した年には、開催が危ぶまれたこともあったが、絶やさず歴史を刻んできた。
今年の記念大会では、参加した女将同士が、これまでの歴史を振り返る機会もあるだろう。そして、また新しい第一歩を踏み出していく。「女将セレクション」がそのきっかけになればいいと思っている。
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近年は訪日外国人旅行者も急増し、日本旅館にも訪れるようになった。世界的にスタンダードなサービスを提供するホテルと異なり、日本独自の文化を色濃く残す旅館では、異文化の旅行者を迎え入れることに苦労も多いと思う。
数年前、1週間滞在したパリ郊外の安宿には、マダム(女主人)がいた。フロントは毎回スタッフが変わったが、朝食会場には必ずマダムが姿を見せ、クロワッサンやヨーグルト、リンゴなどを並べていた。彼女はあまり愛想が良くなく、どの客とも「ボンジュール」とあいさつを交わす程度で、滞在中笑顔はほとんど見なかった。
それでも、マダムがいると安心した。異国の地で、ほとんど言葉が通じないなか、造作なく笑顔を浮かべることができるフロントスタッフよりも、素っ気ない態度のマダムの存在が心強く感じた。そこに存在するだけで、安心の度合いが違うから不思議だ。日本の旅館女将も日々、“おもてなしのこころ”で外国人旅行者に安心感を与えている姿を思い浮かべると、その存在の大きさを改めて思い知る。
(編集長・増田 剛)