「観光革命」地球規模の構造的変化(210) 統一地方選と地域の未来
2019年5月11日(土) 配信
4年ごとの全国統一地方選が終わった。今回の統一地方選では、市町村長選や市町村議選における無投票当選の増加が指摘されている。人口減少と高齢化に伴って首長や地方議員のなり手不足がさらに深刻化している。
今回の統一地方選では北海道の赤平市で市長選挙が実施されたが、現職市長が市役所前企画課長に大差で敗れる事態が生じている。現職市長が推進した炭鉱遺産ガイダンス施設の建設の進め方が不適切という批判を浴び、1期のみで退陣になった。
赤平では1918年に炭鉱が開坑し、60年の最盛期には人口が6万人近くになったが、94年に最後の炭鉱が閉山し、現在は人口が約1万人に減少。赤平市は、全国唯一の財政再生団体である夕張市と同様の旧産炭地であり、市の財政は厳しい状態が続いている。
花卉栽培などに力を入れているが、人口減少に歯止めがかからないために炭鉱産業遺産を活用した観光振興にも注力している。しかし、市民の行政サービスへの期待は多様化しており、「炭鉱遺産活用阻止」を公約に掲げる市議候補者も立候補していた。そういう状況の中で現職市長の落選が生じている。
道内の三笠市は赤平市と同様の旧産炭地であるが、今回の市長選は無投票で、現職の西城賢策市長が再選された。三笠では1879年に北海道で最初の本格的坑内掘炭鉱が開業。最盛期には人口が6万人を超えたが、1989年に最後の炭鉱が閉山したあと、急激に人口が減少し、地域の衰退が生じた。現在の人口は8432人。幸い、西城市長のリーダーシップの下で4大プロジェクトが進展している。①三笠ジオパーク「さあ行こう! 一億年時間旅行へ:石炭が紡ぐ大地と人々の物語」事業②三笠市立高校食物調理科と高校生レストラン事業③イオンアグリ創造と連携した農業振興(三笠メロンを香港に輸出など)④石炭地下ガス化(室蘭工大との連携)事業――などが順調に進展している。三笠ジオパークをベースにした観光振興、高校生レストランを起点にした「食街道づくり」も手掛けている。
三笠市のように「民産官学の協働」によって地域資源の持続可能な活用をはかりながら、人育てや地域づくりを着実に行っていくことの大切さを改めて認識し直している。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。