「観光ルネサンスの現場から~時代を先駆ける観光地づくり~(172)」 ジオ・ツーリズムの仕組みづくり(茨城県つくば市)
2019年5月23日(木) 配信
4月下旬、新緑に輝く筑波山の麓、つくば市の筑波学院大学を訪ねた。地元NPOつむぎつくばが主催する講演会とシンポジウムで、テーマは「ジオパークと酒蔵ツーリズム」である。ジオパークは既に国内44地域、うち洞爺湖有珠山(北海道)など9地域がユネスコ世界ジオパークに認定されている。2016年に認定された「筑波山地域ジオパーク」もその1つ。
ジオパークは「地球・大地(ジオ)」と「公園(パーク)」を組み合わせた「大地の公園」のこと。地球(ジオ)を学び、丸ごと楽しむことができる場所と定義されている。自然の地形・地質の大地(ジオ)の上に広がる動植物や生態系(エコ)のなかで、私たちは産業や文化を築き、歴史と暮らしを育んできた。
今回のテーマは、この地域に数多くある身近な酒蔵(生業)や地域の歴史や暮らしとジオの関係をわかりやすく討議しようというものであった。ゲストは筑波大学地球科学の久田健一郎教授、酒サムライの平出淑惠さん。地元、稲葉酒造の稲葉伸子さん、浦里酒造の浦里浩司さんも参加していただいた。酒の仕込み水は地下水や、これらに溶け込む岩石成分が重要なカギとなる。だから、日本各地の酒には、その土地固有の強い個性が付与される。
しかし、観光(ツーリズム)の視点からみると、ジオパークはやや難しいという印象が否めない。ジオや生物・生態に興味があるのは、学者・専門家や山岳愛好家など専門性の高い人々である。最近はNHK番組「ブラタモリ」の人気で、地形と産業や暮らしを読み解く面白さが1つの社会現象となってきた。特定テーマに強い関心を持つ人々(SIT客)なども増加しているので、ジオパークには追い風ではある。しかし一般人にとっては、専門的な話はやはりとっつきにくい。筑波山ジオパークも、この地域になぜこんなに酒蔵が多いのか、優れた笠間焼の土とジオパークの関わり、霞ヶ浦に浮かぶ帆曳舟とその形の秘密、湖岸に多くある閘門の理由、常陸国分寺や国衙がなぜ石岡市に立地したのかなど、身近な疑問をわかりやすく、かつ面白く紐解くことが重要である。
そもそも、ジオパークのストーリー(ジオストーリー)は日本遺産のように地域ブランディングの手法でもある。その物語の秘密や面白さを顧客の驚き、価値にどこまで近づけることができるのかが問われている。
各地のジオパークでは、優れたガイドが数多く育っている。まるで学びを競い合うようによく学んでいる。だが、問題は知識量ではなく、ジオパークの何を楽しむのかという価値の創造、ジオパークを楽しむ仕組みや優れたガイドツアー、飲食の楽しみ、宿泊、移動(2次交通)などを総合的に提供できるマネジメント組織が重要である。ジオツーリズムは1つの事業であり、これらの仕組みこそが問われているともいえる。
(東洋大学大学院国際観光学部 客員教授 丁野 朗)