〈旬刊旅行新聞7月1日号コラム〉地元文化を育てる旅館 人は“文化の力”に惹きつれられる
2019年6月30日(日) 配信
第30回全国旅館おかみの集い(全国女将サミット)が7月1日に東京・新宿の京王プラザホテルで開かれる。
昨年の第29回は鹿児島県で開催され、指宿シーサイドホテルの有村青子女将と、指宿白水館の下竹原成美女将が運営委員長を務め、盛大に行われた。
先日、日本温泉協会(笹本森雄会長)の創立90周年の記念式典と総会が指宿白水館で行われ、ちょうど1年ぶりに鹿児島の地を訪れた。
指宿白水館の玄関には、下竹原女将をはじめ、有村女将、いぶすき秀水園の湯通堂温社長ら地元観光関係者が総出で、全国からのお客を笑顔で出迎えていた。式典では豊留悦男指宿市長や、同市出身の三反園訓鹿児島県知事も来賓として出席し、祝辞を述べた。
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指宿温泉を訪れるのは、実はまだ2回目だった。5、6歳のころ、両親に連れられて指宿のリゾートホテルに宿泊したことは鮮明に覚えている。家のアルバムにも写真が残っている。
指宿は南国というイメージが強い。同じ九州の別府や宮崎も南国ムードが漂っているが、指宿はさらにその度合いが強まる。古いアルバムの写真も、幼い私と両親が南国リゾートを強烈に押し出したレストランで夕食を楽しんでいるシーンである。ホテルのスタッフに撮影してもらったのだろう。
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もう40年以上も訪れていない指宿だったが、幼いころの自分の記憶を確かめるためにも、指宿訪問はとても楽しみにしていた。
今回宿泊した指宿白水館には、敬服するばかりだった。広大な敷地の樹木や芝生の庭園は綺麗に整備され、離宮の客室からは錦江湾を望む絶景が広がっていた。客室は自動ドアで調度品の質も高い。日本のお風呂の歴史を再現した約1千坪の元禄風呂は広さ、種類の多さも圧巻で、砂むし風呂も備え、自分好みの風呂を選ぶことができる。
露天風呂は植物に囲まれ、夜の植物の濃密な香りと、6月の潮風が心地よく吹き抜け、あづまや式休憩所で涼むと、いつまでも立ち上がることができなかった。まさに日本最高峰の温泉リゾートだと感じた。
日本温泉協会の90周年記念パーティーは指宿白水館が大切にする薩摩文化の集大成である「薩摩伝承館」で行われた。そこに展示されている3千点を超える数々の壺や骨董品、美術品などからは、本物が放つ異様な力を感じ取った。
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幼いころのきらびやかな記憶は、大人になって訪れたときにその輝きを失うケースが多い。しかし、今回訪れた指宿温泉のエリアは活気に溢れていた。指宿白水館においては、知識人や文化人、政財界のトップが訪れても感嘆するほど、力強い文化力を漂わせていた。人は文化の力に惹きつけられるものだと確信した。
今年、第30回全国女将サミットの運営委員長を務める小田真弓女将の加賀屋(石川県・和倉温泉)もそうだが、高価な器や調度品も含め、地元の文化を継承しながら、宿がリアルタイムで新しい文化を育て、日本中、世界中に発信しているのだ。
「旅館経営は難しい」という声をしばしば耳にするが、首都・東京から遠く離れた全国各地で、文化力の高い旅館が頑張っている姿を見ると元気になる。宿の持つエネルギーが宿泊客にも自然に補充されていくのだろう。
(編集長・増田 剛)