「津田令子のにっぽん風土記(51)」「地元を誇らしく語ってほしい」~ 岐阜県岐阜市編 ~
2019年7月13日(土) 配信
寺町正美さんは岐阜県岐阜市でNPO法人ORGANのスタッフを務める。最も大きい割合を占める仕事は「長良川おんぱく」の事務局業務だ。昨年は160の体験プログラムが実施されたが、それぞれについて実施者とやりとりをし、企画のブラッシュアップなどのサポートをした。パンフレット制作や事務も行っている。他にもインバウンド担当として、外国人向けのツアー造成やパンフレットの翻訳を行う。
岐阜市出身で、大学に入ったころは岐阜には「なにもない」と思っていた。しかし大学1年生でまちあるき講座に参加したとき、他の参加者が市内の柳ケ瀬商店街に連れて行ってくれた。「面白い店がたくさんあって、衝撃でした。岐阜がつまらないと思っていたけれど、つまらないのは私だったのです」。まちのことを伝えたいと大学4年間でさまざまな活動をした。就職活動でも岐阜の企業にと考えていたが、短期留学したカナダ・バンクーバーで暮らしてみたいという思いが募り、卒業後は1年4カ月間ワーキングホリデーで滞在した。
帰国直前、「長良川の文脈がわかって英語が話せる人がほしい」と誘いを受け、ORGANの運営する「長良川デパート」でアルバイトを始めた。長良川流域から生まれた商品の店で、和傘や提灯など高価なものも多い。それでも寺町さんは自分で商品を買って使い、その感動を接客時に伝えるようになった。「職人さんと話したり、工房を見学したりすると『すごく手間が掛かっている』『後継者がいないなんて』と、湧き上がる感情がありました。わかる人に本物を渡すほうが、岐阜で守るべきものを守れると思います」。その後、欠員が出たことからORGANの常勤スタッフに誘われた。
寺町さんにとって「岐阜の人、とくに若い人が岐阜を誇らしく語れるようにしたい」という思いは、学生時代から変わらない。インバウンド事業も「外国人が新しい視点でこのまちを見て『面白い』と言ったら地元の人もはっとする」と思いながら臨んできた。
そうしたなかで、広報や経営、外国人に英語で効果的に発信するノウハウをもっと学びたいと考えるようになった。寺町さんはカナダ・ビクトリアの大学で学び、3年間の就労ビザを取得してそのまま現地で働くことを決めた。今夏、再びカナダへ渡る。「将来は岐阜の人が岐阜を語れるようにする、面白い何かをディレクションできるようになりたいと思います」。
コラムニスト紹介
津田 令子 氏
社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。