「提言!これからの日本観光」 「教育旅行」に「産業観光」を
2019年7月15日(月) 配信
日本には「教育旅行」(修学旅行)という独特の学校行事がある。はじまりは、明治時代の東京高等師範学校の「長途遠足」からと言われ、100年に及ぶ長い歴史をもつ。今も小中学校では、ほとんどの学校がほぼ全員参加で実施し、修学旅行が生まれて初めての旅行体験だった人も多い。筆者もそのひとりだ。
非日常的体験を通じての学習効果も大きく、観光の普及にも大きい役割を果たした。
昨今、国内観光の様相は大きく変わってきた。外国人観光客の急増、観光の盛行で、リピーターの増加が目立ってきた。外国人観光客の受入体制整備、観光資源の魅力(再)開発などによる日本の「光」の維持と発揚策は急務である。とくに、観光資源への視点を変えて、新しい魅力を発見する「産業観光」などのテーマ別観光の推進が期待される。日本観光振興協会(日観振)は「新産業観光」ともいうべき産業観光の国際展開(外客誘致、工場工房、農漁場の見学、体験)など、受入体制の整備と情報システムの構築を進めている。
一方、学習指導要領では「知識及び技能を確実に習得させ、これを活用して課題を解決するための思考力、判断力、表現力を育むべき」と定めている。人間の基本的営みで、知識技能の集積である「産業(ものづくり)観光」は最適な教育手法でもあると考えられる。
日観振は、日本修学旅行協会、各自治体、教育関係機関と連携して、教育(旅行)に「産業観光」を取り入れた「教育産業観光(旅行)」を提案している。
具体的には①学校での「産業(ものづくり)」に関わる授業への講師派遣、資料提供など「出前授業」の実施②「産業(ものづくり)」にかかわる副読本の作製(既存の郷土理解への副読本への収録も含む)への資料提供、編集協力③教育旅行で「産業」(ものづくり)現場の見学と体験を実施(「教育産業観光」の実現)④教育旅行の計画に、日観振の「産業観光総合情報システム」を活用する――。
教育旅行でのプログラムとしては、次のようなものが考えられる。
農業(田畑や牧場など)、水産業(漁場、市場)、製塩、林業(山林、苗場)、窯業(陶磁器)、製造業(工場、工房)などの作業現場の見学と体験などだ。これらにかかわる加工製品の工場と工房での作業体験(酪農製品、農業製品、水産加工品などの生産過程の見学、一部の体験など)も教育旅行の対象として効果的だ。
「産業観光」は地域の暮らしに密着しており、観光を通じて、地域(学校)間のコミュニケーションがはかれるので、教育旅行にふさわしい観光だ。教育旅行の目標である「見る」「学ぶ」「体験する」の三位一体の観光も実現できる。「教育産業観光(旅行)」は「心をよせあうなかから文化が生まれる」―「令和」の時代精神にふさわしい学校行事になると考える。「教育産業観光(旅行)」の普及に期待したい。
日本商工会議所 観光専門委員会 委員