「観光ルネサンスの現場から~時代を先駆ける観光地づくり~(174)」文化財を活かしたまちづくり(福井県小浜市)
2019年7月21日(日) 配信
文化財は古くから観光資源になってきたが、近年はこの機運がさらに加速している。保全優先で活用が難しかった文化財の抜本的な活用が、今や大きな目標となってきた。
その契機となったのが2016(平成28)年3月策定の「明日の日本を支える観光ビジョン」である。19(同31)年に改正文化財保護法が施行され、「文化財保存活用地域計画」が法律上にも位置付けられたことが大きい。
「歴史文化基本構想」などを活用した観光拠点づくり事業も始まった。同構想は、地域に存在する文化財を指定・未指定に関わらず幅広く捉えて的確に把握し、文化財をその周辺環境まで含めて、総合的に保存・活用するための構想。すでに全国で100を超える地域が策定または策定中である。15(同27)年度から始まった「日本遺産」も、こうした流れの中の象徴的な事業の1つでもある。
こうした動きの1事例が、福井県小浜市の取り組みである。小浜市では、11(同23)年に歴史文化基本構想を策定済み。だがその基本方針は、文化財の保存と活用によるまちづくりを骨格に据えること、取り分け食文化を基軸としたストーリーの展開をはかること、住民を主人公として文化財の保存と活用を協働で進めることであった。食文化を基軸としたストーリーは、日本遺産第1号の「海と都をつなぐ若狭の往来文化遺産群~御食国若狭と鯖街道~」として認定された。
今回の地域計画は、いわば地域文化財の保存・活用のためのアクションプランづくりでもある。基本構想以後に指定された文化財や日本遺産の構成文化財、さらには未指定を含めた多様な文化財を総合的に調査・把握し、まちづくりや観光など、他の行政分野とも連携して、総合的に文化財の保存・活用を進めるための枠組みの確立を目指している。
保存活用区域は、それぞれのテーマごとに5つのカテゴリーに集約・整理されている。その1つ「京につながる鯖街道関連の文化財群」がベースとなり、日本遺産認定へとつながった。今回の計画で地域が目指す将来像は「御食国若狭の成立と発展~若狭の文化 食にあり~」である。鯖などの魚介類はもとより、古代からの製塩遺跡跡や首長墓群、自然との共生を象徴する景観や祭り、伝統産業など、御食国を支えた歴史・文化を幅広く捉えようとしている。
小浜ではDMOおばま観光局が核となり、京都の有名料理人との連携、鯖街道A級グルメツーリズムの企画・発信、小浜西組重要伝統的建造物群保存地区の町屋を活用した宿泊施設や人材育成など、観光活性化のための取り組みも盛んである。
文化財の活用には、地域の合意形成とともに、活用計画とその推進体制の構築が何よりも重要となる。地域計画の策定は全国的にもまだ緒に就いたばかりであり、小浜の取り組みはその意味でも全国のモデルとなろう。
(東洋大学大学院国際観光学部 客員教授 丁野 朗)