〈旬刊旅行新聞7月21日号コラム〉ゴミが少ないまち 衛生的で誇らしく、輝いてみえる
2019年7月20日(土) 配信
普段あまり気づかないが、海外旅行から帰ってきて最初に感じるのは、日本の街角や道路に落ちているゴミの少なさである。開店前の店舗では、スタッフが大きな窓を磨いていたり、箒とちりとりを手に店舗の前の歩道を掃除したり、見ていて気持ちがいい光景だ。
土曜日や日曜日には、地域で清掃活動をしている姿もよく見掛ける。大都会でも、田園が広がるエリアでも、美しく清掃されているまちは、衛生的で誇らしく、輝いて見える。
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だからこそ、海外を旅する際、渡航先で私が一番気にするのは、その国の衛生状態である。せっかくの旅先で「東京にもありそうな気取った店で食事をするのはつまらない」と思ってしまう性質なので、どうしても街の路地裏にある格安の食堂に向かってしまう。
そうは言っても、あまりにも衛生状態の悪い店で食事をして、その後に体調を崩しては旅が台無しになる。自分の体が対応できるギリギリの美味しい店を探すのが楽しい。判断基準は色々あるが、最後は自分の直感に頼るしかない。
衛生の判断は、到着した異国の空港のトイレから始まる。どこの国も玄関口である空港のトイレは割と清潔に保たれている。「思ったほど悪くない。この国は大丈夫だな」と、自分に暗示をかける。
市場も1つのバロメーターになる。魚介類や野菜がどのように並び、売られているかで、ある程度その土地の衛生レベルが判断できる。
未知の国では、初日はファストフード店から胃を慣らしていくやり方が定石だ。徐々に現地のディープな店へと挑戦していく。外国人旅行者が平然と食べているのを見て、「後は野となれ、山となれ」という掛け声とともに、勢いよく店に入ることもある。
アジアの路地裏では、床がゴミだらけの飲食店も多い。テーブルに置いてあるコップはしっかりと拭かないと使えないほど汚れていたりもする。それでも味は絶品な店が多く、自分が賭けに勝ったようで、とても気分がいい。これこそが、旅の醍醐味だと感じる瞬間だ。
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多くの日本人が世界中へグルメ旅行に飛び立つように、海外からも日本にグルメ旅行に訪れる人が増えている。外国人旅行者は日本で何を食べているのだろうと思うことがある。
オフィスが東京・秋葉原に近いので、多くの外国人旅行者が行き交う。欧米人の姿も目にするが、やはり圧倒的に多いのがアジアからの旅行者だ。
お昼時になると、大型観光バスが停まり、決まった中華料理店に向かう。食事後には、その地下にある店から団体旅行者が出てきて、店の前の道路に座って缶ジュースを飲んだり、大声で話したりしている。
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ある日、その中華料理店の女主人が地下の店から出てきて、食べ終えた客に「ここは道路なので座らないで」と注意したり、道路脇に捨てられたジュースの空き缶を彼女は黙って近くの空き缶ボックスに入れていた。私は少し感動してしまった。女主人は、自分の店に来た自国の若い客に「日本ではダメなのよ」と諭していたのだ。
朝、会社に向かう道すがら、地元の人たちが掃除する姿を何度も目にしてきたが、異なる文化の人々にも影響を与えている。その瞬間に出会えたのだと感じた。
(編集長・増田 剛)