〈旬刊旅行新聞9月1日号コラム〉出国日本人数も堅調 アウトバウンド2000万人を歓迎したい
2019年8月31日(土) 配信
日韓関係の悪化や、香港のデモの激化など、国際情勢が大きく揺らぐなか、日本政府観光局(JNTO)はこのほど、7月の訪日外国人旅行者数(推計値)を発表した。これによると、前年同月比5・6%増の299万1200人と、ほぼ300万人となった。単月で300万人規模の外客が訪れる時代になったのかと、驚いている。
さらに、最多の中国は同19・5%増の105万500人と、ついに100万人の大台に乗り、過去最高を記録した。近年、日中両国の関係が改善されたことも影響しているのだろう。巨大市場・中国が好調なことは歓迎すべきだが、シェアが全体の3分の1を超えている点は、注視しなければならない。
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懸案の韓国は同7・6%減の56万1700人と大きく減少した。日韓関係は悪化の一途を辿っている。両国を結ぶ航空路線が縮小傾向にあり、今後もさらに訪日客の減少が予想される。
韓国では「反日」感情の過剰な高まりによって、日本を旅行してSNS(交流サイト)に投稿すると激しく非難されるという。そのような厳しい状況のなか、日本の文化が好きで、「日本を旅したい」という親日派の韓国人も少なからずいる。
先日、韓国を訪れていた日本人女性が韓国の男性に暴行を受けたというニュースが流れた。国家間の軋轢により、政治と観光は連動しやすいが、一体であってはならないと思う。感情に任せずに、冷静に状況を判断しなければならない。いかなる国であろうと、日本を訪れる常識的な一般の旅行者には、礼節を尽くして迎えたい。
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インバウンド動向ばかりが耳目を集めるが、7月の出国日本人数は同6・5%増の165万9200人と堅調に推移している。1―7月の累計は前年同期比8・3%増の1120万1500人と好調で、すべての月で前年を上回っている。
田端浩観光庁長官は8月21日に開いた会見で、今年念願の2千万人を達成するとの見方を示し、「2200万人を目指したい」と語った。もし、この目標値に到達するなら、インバウンドに遅れをとっていたアウトバウンドも、相互国際交流の拡大に向けて新たなステージに足を踏み入れることになる。
出国日本人数の推移を振り返ると、2000年に1782万人まで順調に伸びてきたが、翌01年に米国同時多発テロにより、大幅に減少。03年にはイラク戦争、新型肺炎SARSが発生し、1330万人にまで落ち込んだ。04年から回復基調にあったが、09年にはリーマン・ショックの影響で1545万人と再び低迷。東日本大震災の翌年の12年には1849万人と過去最高を記録した。
その後も伸び悩むなか、16年から少しずつ上向き、18年は1895万人を記録し、2千万人という目標が現実のものとして見え始めた。そして、今年は史上初めて2千万人を達成できるチャンスが訪れた。
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日本の工業製品は世界各地で見かける。海外で道路を走る日本車を見ると、誇らしくなる。「日本製品は見かけるけど、日本人を見なくなった」と現地で言われるのは寂しい。個人でも、頻繁に会えば親密さが深まる。行き来が減れば関係は細くなり、やがて絶える。アウトバウンドの拡大は、長期的な視野で国益を利することになる。アウトバウンド2千万人を歓迎したい。
(編集長・増田 剛)