〈旬刊旅行新聞9月21日号コラム〉観光教育 子供たちの前に大人が深く理解を
2019年9月21日(土) 配信
観光庁は2020年度予算の概算要求で、「観光産業における人材確保・育成事業」に2億4700万円を求めた。「観光産業に携わる人材が質・量両面において不足している」(同庁)認識のもと、観光教育の充実に取り組んでいく考えだ。
観光系大学では、経営や課題解決スキルなど専門能力の習得を目的とした「モデルカリキュラム策定」を支援する。また、「中核人材」の育成も重視している。旅館やホテル、旅行会社などで勤務する観光産業従事者には「社会人向け教育プログラム」を複数の大学で実施する。
そして、近年は小学生や中学生の時期から、観光教育を導入すべきだと議論する機会が増えてきた。
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本紙9月1日号では、「観光教育~早期導入で業界へ優秀人材を~」をテーマとした特集記事を企画した。玉川大学教育学部教授の寺本潔氏と、立教大学名誉教授の村上和夫氏に、それぞれの立場から観光教育のメリットや課題などを語っていただいた。
そのなかで、両氏が指摘したことは、「教員が観光教育の大切さを学ぶ必要がある」ということだ。
寺本氏は「未だに『観光=遊び』と捉えて、『学校で扱うに相応しくない』と考える先生もいます。そのため、観光教育のメリットを発信する必要があります」と語っている。
観光産業には旅館や旅行会社だけでなく、病院や警察、水道、ゴミ処理業者、地元の農水産業など、ありとあらゆる人たちが関わっている。これを、「まずは先生方に勉強してもらわなければならない」(寺本氏)というのが現状である。
村上氏は、中学校と高校の教員のほとんどは、教育学部、理学部、文学部出身と指摘する。そのうえで「教育免許の更新時に、先生方に観光について教える機会を設けて、観光教育の拡大をはかることが望ましいと感じています」と提案している。
教育現場を知る両氏の言葉は重い。子供たちへの観光教育を語る前に、大人が観光を深く理解する必要があることを思い知らされた。
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観光は間口が広く、誰でも学ぶことができる。特別な知識や高度な技術なども必要ない。小学生でも、100歳を超えても学ぶことが可能である。だが、間口の広さと敷居の低さゆえに、異業種からの参入もたやすい。観光を学んでいない人が「一時的なお金儲け」のために参入し、観光地の調和を壊したり、陳腐化を加速化させたりする例を嫌というほど見てきた。
民間事業者だけではない。自治体の観光課に在籍する担当職員が観光をしっかりと理解していないために、「隣の自治体もやっているから」というだけの理由で、全国各地が横並びになる例も、嫌というほど見てきた。B級グルメブームで、似たような〇〇バーガーがあちこちでつくられる。「ゆるキャラ」をアピールすることに熱心な周回遅れの自治体……。やはり観光教育は大事だと思う。
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必要なことは、「観光」の視点を備えること。これさえ得られれば、「長期的な視野で物事を考える訓練」になるし、「真似や偽物ではダメだ」という本質を探究する目を養える。歴史や地理、語学、政治、経済、科学技術、芸術、文学、環境への関心など、あらゆる学問につながる「観光教育の大切さ」を広めたい。
(編集長・増田 剛)