「トラベルスクエア」特典与えるなら「太っ腹」で
2019年9月23日(月) 配信
今年の夏もドイツ・フランクフルトに在住の実姉のところに25日間、ホームステイしてきた。まさに旅行というより、暮らしに行く感じだが、それだけに姉夫婦のドイツでの日常の過ごし方が分かって興味津々だ。
そして、海外にいるからこそ分かる、日本のある種のサービス哲学の欠如が見えたりもする。
ある日、姉がフランクフルトの日本領事館に用事があるから、一緒に行かないか、と誘いがあった。10月中旬に、今度は逆に姉たちが日本に帰省して我が家を拠点に日本を回ったりするので、そのためのジャパンレイルパスの発行願いに行く、というのである。
「そんなこと書面往復でできないの?」と聞くと、事前の手続きは郵便でやれても、最後は直接領事館まで行って、書類の直接手渡しなどだそうである。ただ、渡すだけ。待ち時間がなければ1分で済むことだ。
しかも、それから1週間後パス発行の許可証が出るのだが、それも直接受け取りだ。2回も足を運ばなければならない。
姉の場合はフランクフルトに住んでいるから、片道30分のドライブでいいが、これが近隣の諸都市、ドルトムントやケルンだったら、そのためだけに片道数時間かけなければならない。結構な仕事なわけだ。
定額でJR乗り放題のこのパスはインバウンド客必携のものだが、こういう「サービス」を受けるために、どれだけ手続きの不便を強いられることか。JRさんが悪いのか、日本の外務省がいけないのか、よくわからないが、こういう外国人にお得なサービスは、もっと手続きを簡略化し、もっともっとユーザーフレンドリーにならないものか、と思う。誰もが入手しやすくして、どんどんJRを使ってもらう。その方が最終的には企業側もお得に思うのだ。
勘ぐりに近いかもしれないが、日本のサービス業には特典を与えるけれど、そのために面倒な処理時効のハードルが高くて、面倒くさいや、と思えることが幾つもある。
昔、都市ホテルでスムーズチェックアウトサービスというのがあった。朝の混雑時チェックアウトの行列に並ばないで済みますよ、というものだったが、それをするためにはチェックイン時に煩瑣な登録手続きをしなければならず、かえって面倒を感じたものだ。早いチェックアウトのためにチェックイン時に、待たされる。これって何なの?と思ったものだ。
それにジャパンレイルパスは新幹線での、のぞみの乗車が不可。これの評判がすごく悪い。
割引客を増やしたくない気持ちは分かるが、どうも煮え切れない。一旦、ユーザーに特典を与えようというのなら「太っ腹」で使ってもらうほど嬉しいという態度でいられないものだろうか?
コラムニスト紹介
オフィス アト・ランダム 代表 松坂 健 氏
1949年東京・浅草生まれ。1971年、74年にそれぞれ慶應義塾大学の法学部・文学部を卒業。柴田書店入社、月刊食堂副編集長を経て、84年から93年まで月刊ホテル旅館編集長。01年~03年長崎国際大学、03年~15年西武文理大学教授。16年~19年3月まで跡見学園女子大学教授。著書に『ホスピタリティ進化論』など。ミステリ評論も継続中。