「宿にITを活用できる人材が必要」 産学官の視点で議論
2019年9月24日(火) 配信
日本工学院と東京工科大学を経営する片柳学園はこのほど、「今後のホテル・旅館業界の求める人材像」をテーマにパネルディスカッションを開いた。産学官の視点から、宿の抱える人手不足や生産性向上について議論し、ITを活用できる人材の必要性などを確認した。
登壇者は、観光庁観光産業課参事官の小熊弘明氏、帝国ホテル情報システム部長の花井伸二氏、ホテル銀水荘執行役員経営企画室室長の関太郎氏、タップ会長の林悦男氏の4氏。進行役は立教大学観光研究所特任研究員の玉井和博氏が務めた。
討論の冒頭、立教大学の玉井氏は人手不足について言及。「産業界側は優秀な人材を希望しながら、具体的な人材像には触れてこなかった」と指摘した。一方、学校側も「投資や金融をマネジメントできる人材を育成する『オペレーション教育』が必要」だが、難しい現状を紹介した。
そのうえで、観光立国を目指す観光庁の小熊氏に、行政の立場から観光業界の人材育成について意見を求めた。
□観光庁
小熊氏は、宿泊業の人手不足について「従業員の高齢化」も一つの特徴として提示した。60~80代の割合が3割を占め(総務省「2017年の就業構造基本調査」)、「全産業と比較しても多く、離職率も高い」と指摘した。
労働生産性の低さも課題だ。ITを活用して「効率化、生産性の向上に成功した事例」などを共有していく取り組みも説明。さらに、観光業界の経営トップ育成へ、旅館・ホテルのマネージャーらを対象にした中核人材向けの講座や、現場の実務人材向けのインターンシップを実施しているとも紹介した。
□帝国ホテル
日本を代表する帝国ホテル(東京都千代田区)でも、「接客にかける時間は3割、裏方の仕事が7割を占める」と、限られた滞在時間の中で「スタッフがいかにお客様との接客時間を増加させられるかを課題としている」(花井氏)。「裏方仕事のIT化を加速させる」ことが急務で、「ハイテクに支えられたローテクなサービスの実現」を目指している。
帝国ホテルの年間延べ宿泊者数は約43万人。室稼働率は82%。外国人宿泊者数は日本人と同じ割合まで比率を上げており、「今後も伸び続ける」と予想する。
同ホテルでは、タブレット約280台とパソコン約1300台を使用している。Wi―Fiサービスは1日当たり約6200台の利用があるが、「サイバー攻撃は月45万件に達する。ITサービスの安心・安全を提供することも大事なサービス」と、ITセキュリティーに関わる専門人材の必要性を強調した。
さらに、「宿泊前後のデータを取得しているが十分に活用できていない」と点を指摘。「航空会社や、空港からの移動手段などの顧客データを積極的に活用し、満足度の向上をはかりたい」(花井氏)と述べた。
□ホテル銀水荘
一方、「おもてなし」に定評のある静岡県・稲取温泉のホテル銀水荘も人手不足に悩む。
同ホテルの関氏は「接客スキルだけでなく、情報活用もできる人材の確保と、若い世代の活躍できる環境整備が必要」と課題を整理した。「人によるホスピタリティと、ITを活用できる人材がこれからの旅館に求められると思う」。
同ホテルの客層は団体の宴会利用が中心だったが、今は個人旅行客が主流となっている。宿の選定も、大規模な宣伝によるブランド構築から、SNS(交流サイト)やOTA(オンライン旅行会社)のクチコミが、決め手となっている。
ホテル銀水荘では、ビッグデータの活用や、定性的な分析にも着目し、OTAのクチコミから、ニーズを分析できるシステムを導入している。より詳細にクチコミを分析するため、システムを運用できるIT技術者を確保したい考えだ。
□タップ
ホテルのIT化を進めるタップの林氏は、ホスピタリティ工学の視点から、「これからのホテルは、自分の泊まるホテルは自分でオペレーションするようになる」と語った。スマートフォンで予約とチェックイン、レストランの予約、チェックアウトまで済ませる。
米国のホテルではテクニカルロボットがルームサービスしたり、熱海ではチェックインしたら、前回宿泊した際に客が設定した温度で客室の温泉が自動に出るシステムなどを紹介し、「技術がサービスという形に変化する」と述べた。
これらを実現するために、林氏は「ホスピタリティ精神を持ち、システムを運用できるIT人材が必要」と強調した。