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水上観光交通インフラの構築へ 東京五輪”水辺に目を向ける”契機に

2019年9月30(月) 配信

(左から)岡野氏、崎山氏、阿部氏 取材はマーチエキュート神田万世橋のカフェで8月に行った

 国際観光施設協会(鈴木裕会長)はまちふねみらい塾と共同で、「東京の海事観光インフラづくり」の研究を進めている。両者が目指すのは、スーパーヨットの東京誘致に向けた可能性の検討や、羽田空港と都内を結ぶ水上交通システムの構築など。同協会の岡野正人事業委員長と、﨑山茂建築部会長、まちふねみらい塾の阿部彰専務理事に、「水上観光交通インフラ」構築の目的や、都内の水辺を観光資源として生かす可能性を聞いた。

 東京都内の河川は、江戸時代に大きな整備が行われ、今の姿が形作られた。残念ながら、江戸時代の遺構がほとんど残っておらず、現在ではその姿を見ることは難しい。
 このため、都内の河川を観光資源として考えた場合、1923年に発生した関東大震災以降の歴史に触れることがテーマになる。例えば、日本橋川に架かる25本の橋のうち、12本は震災の復興橋として架けられたもので、当時の姿を今も見ることができる。

 また、日本橋近くには、関東大震災後に建造された野村證券ビル(現・日本橋野村ビル)と江戸倉庫ビル(現・日本橋ダイヤビルディング)、東株ビルディング(現・日証館)も残っている。

  一方で、清澄白河から門前仲町に至る約6㌔の運河に、桜が水面に垂れ下がるように咲いている水路が約3・5㌔も続いていることは知られていない。
 阿部氏は「都内の水辺には、多くの観光資源が眠っている。これらを生かせるかは、洪水や高潮などからの安全を守りつつ、水辺を自由に活用する東京都のアイデアにかかっている」と語る。

都内には多くの観光資源が眠る(提供:まちふねみらい塾 阿部彰専務理事)

観光インフラとしてまちと水辺をつなぐ

 都内の水辺活用は、観光資源としての役割だけではなく、「交通インフラ」としての利用も、重要な課題だ。重要視しなければならないことは、「水路がまちをつなぐ」という視点に立ち、地域全体の観光資源をどう結びつけるかを考えること。岡野氏は、「水辺には、多くの人が集まる。パリ(フランス)やニューヨーク(アメリカ)など世界の水辺にある都市は、交通インフラなどとして上手に水を活用している」と指摘する。

 しかし、観光資源が集まる都心の内部河川は架かる橋の高さが低く、隅田川や海側で稼働する大きさの船では通行しづらい。さらに、既存の舟運事業者らが新規に水上観光事業に参加しようとする場合、船を係留する場所がなく、レジャー船のマリーナなどに高額な係留費用を支払うことになる。この負担が価格に転嫁され、観光客の負担にもなりうるという。「問題は旅行者が利用しやすい価格での観光商品を造成しにくいこと。事業船が内部河川の近くに停泊できる施設もインフラとして整備する必要がある」(阿部氏)。

スーパーヨットを日本に

 国際観光施設協会は阿部氏とともに、「東京の海事観光インフラづくり」の研究を進めている。今年7月には国土交通省海事局の水嶋智海事局長(現鉄道局長)に対し、同研究内容をもとにした提案書も提出し、意見交換を行った。

 なかでも、阿部氏らが注力するのが、外国人富裕層などが個人で所有する全長24㍍以上の大型クルーザー「スーパーヨット」を東京に誘致すること。同船を誘致することで、大きな経済効果が見込めると考えている。

 しかし同船を受け入れるには、日本では制度や受け入れ先の整備など課題は多い。

水辺活用を見直す契機は東京オリ・パラ

 同協会の﨑山氏はこれまでの研究を振り返り、「協会で実施した水上クルーズセミナーを通じて、川沿いの景観を生かしている建物が少ないということが分かった。港に付き物の倉庫などでもシドニー(オーストラリア)などでは非常にうまく見せている」と問題を提起する。  

 岡野氏は、「20年のオリンピック・パラリンピックは、臨海地区に選手村が造られ、競技場も多くが水辺にある。観客の移動などに、船が活用されれば、地上交通の負担も軽くなるのではないか」と説明する。

 阿部氏は岡野氏と同一の見解を示したうえで、「船の整備は、急病人や負傷者の緊急輸送にも備えるためにも有効で、それぞれの競技施設の付近に船着場を設置することは今からでも間に合う」と提言する。

 そのうえで3氏ともに、世界中から多くの人が訪れるオリ・パラ開催が、こうした課題を考えるきっかけとなり、水辺の活用に目を向ける契機になればと期待している。

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