開館日「ほぼフル稼働」 凸版施設、各所から熱視線
2019年10月2日(水) 配信
凸版印刷が企画・設計・施工したVR(拡張現実)など同社の最新技術を見学・体験できる「NIPPON GALLERY TABIDO MARUNOUCHI」(東京・丸の内)が人気だ。2018年6月に開館。1日7組(約90人)を1組1時間ほどで案内するが、開館日(平日)は「ほぼフル稼働」と館長の真梶重徳氏は嬉しい悲鳴を上げる。BtoB向け施設で、足を運ぶのは取引のある民間企業が半数以上を占めるが、地方自治体や各省庁、観光団体の関係者らも詰めかける。見学は予約待ちが続くなど各所から熱視線が集まる。【平綿 裕一】
「これはすごい」――。高精細のLEDウォール(幅10㍍、高さ2・7㍍)に映し出された屋久島(鹿児島県)の8K映像が、来場者を出迎える。高精細1・5㍉ピッチのLEDパネル3個で1ユニットを、壁一面に170ユニット以上使い、臨場感ある映像を実現している。小波(さざなみ)が立つ、一つひとつの動きが目を凝らさずともわかる。見学時間が同じだった企業担当者も思わずため息をついた。
施設は国内外の観光客向け観光情報センターをイメージしている。大きな機能は3つある。
1つは、日本の自然美や文化・観光のコンテンツを最先端技術で体験し、日本の魅力を再発見してもらうこと。2つ目は産官学で連携して、文化遺産や観光情報などをアーカイブしたデータベースを構築し、多様な表現方法で発信すること。
真梶館長は「ただアーカイブ化するだけでなく、データをいかに活用していくかが重要。最先端技術を使った投影方法や空間演出など、コンテンツに合わせシステムを最適なカタチで統合して、提案できる。これらを一元的にできることが強みだ」と語る。
「観光万華鏡」と呼ばれる人気の機器は、複数のタッチパネル式デジタルサイネージに画像が流れている。画像に触れると観光スポットの詳細や地図案内が表示され、公式HPなどの情報を携帯端末に受け取ることができる。多言語にも対応。
「サイネージ上を流れる画像を見て、直観的にビジュアルから観光スポットを選べる。『ここにも行ってみたい』と地域の回遊性を高めことができる」(同)という。
施設内のツーリズムギャラリーでは観光万華鏡のほか、デジタル屏風やプロジェクションマッピングを駆使したジオラマなどもある。
VRシアターでは、人の視野角とほぼ同じ120度に広がる4K3面カーブスクリーンにVR映像が投影される。ヘッドセットなどをつけずにVR体験が可能。スクリーンを見ているだけで、まるで自分自身が浮遊し、対象を見下ろしているかのような没入感を味わうことができる。
一方、アナログの文化財の複製品も展示している。同社独自の印刷技法を応用し、東京国立博物館所蔵の国宝「洛中洛外図屏風(舟木本)」を実寸大で再現した。一般的にデジタル一眼レフで3千万画素となれば高画素といわれるが、22億1千万画素のデータから作り上げている。
保護の観点から一般公開が難しい文化財も、より本物に近いものを展示可能となる。
複製化に使った同じデータを用い、VRコンテンツ化もしている。複製品で実物のサイズ感や雰囲気など感じ取り、VRではより細かな対象に絞った鑑賞ができる。
屏風に描かれる人々は数センチほどだが、170㌢ほどのスクリーンいっぱいに拡大可能。着物の柄や人の表情、手に持つキセルなど子細な表現まで楽しめる。
施設機能の最後の一つは、新たな観光のカタチを提案することだ。フューチャーギャラリーでは未来の観光の企画展示を行っている。5Gを活用した実証実験として、分身ロボットが本人の代わりに旅先に行く取り組みが紹介されている。
ここでは完成していない技術も公開する。真梶館長は「プロトタイプも公開することで、他企業の技術を組み合わせるなど、新たなプロジェクトにつながる可能性がある」と話す。施設は「共創」の場でもあるのだ。
施設名称に付くTABIDOU=旅道は、同社の造語。マーケティングやプロモーションなど、同社が行う観光ソリューションの総合的なブランドとして展開している。
「茶道や華道、柔道などのように、旅にも“道”があるだろうとの思いで造った」。
観光に関する技術革新は目を見張るスピードで進んでいく。旅を極める道半ば、これまでとは違う観光の「見せ方」はさらに重要度を増していく。
ただ、旅行者の多様化するニーズを満足させるためには“最先端技術”だけでは足りない。地域の魅力を掘り起こし、常に磨き上げていかなければ、コンテンツ自体が旅行者の琴線に触れることはない。常に発展するテクノロジーと同様に、新たなニーズを追い続ける努力も大事になってきそうだ。
問い合わせ=同社広報部 ☎03(3835)5636。