「津田令子のにっぽん風土記(54)」居心地のいい店で、挑戦者を支援~ 岐阜県岐阜市編~
2019年10月19日(土) 配信
樋口尚敬さんは岐阜市中心市街地の柳ケ瀬商店街、神田町通り沿いのシェアアトリエのビル「カンダマチノート」2階にある「喫茶 星時」の店長を務める。居心地のいい店には若者だけでなくアクティブな中高年も訪れ、それぞれの時間を過ごしている。樋口さんは神戸の証券関係の会社で事務をしていたとき、大学の先輩に誘われたことをきっかけにカフェをめぐるようになった。その会社を退職後、故郷の岐阜に戻って2軒の喫茶店に勤め、2017年4月に独立してこの店を開いた。
オープン直後、集客に悩んだ樋口さんはあまり一般的ではないジャンルのイベントを開こうと考えた。市の生涯学習施設で開かれているイベントを調べ、興味を持ったイベントの主催者に自らSNS(交流サイト)でアプローチ。LGBTs当事者の居場所や交流の場の会や、ボードゲーム会、朗読イベントなどが継続的に開催されるようになった。
今では、店でイベントを開催したいという相談も次々と舞い込む。あまり一般的でないジャンルの場合、集客が上手くいかず赤字がふくらむのではと心配する主催者も多いが、樋口さんは多くの場合「まずやろう」と声を掛け、お客の少ない平日の夜、平日の午前中などにイベントを組んでいる。「最近相談のあった方も集客に不安そうでしたが『昼間にお客さんが多い日の夜に開催すれば、昼間のうちに稼げるから大丈夫』と声を掛けました。やってみたら、お客さんはちゃんと来たのです。『よくぞ一歩踏み出してくれた』と思いました」。
星時のある柳ケ瀬商店街は、車で訪れると有料駐車場を利用する必要があるために客足が減っていると以前から言われてきた。これに対し、樋口さんの考える解決策は「無料駐車場をつくる」ではない。「1軒のためだけに有料駐車場を使うと高いかもしれないけれど、半日や1日のコースがあって、それで1日500円だったら駐車してもらえるのではないでしょうか。観光地ならみんなお金を払いますよね。そういう感覚で柳ケ瀬を使ってくれればいいと思います」。
樋口さんはツイッターなどで、自店だけでなく柳ケ瀬商店街の情報、周辺のカフェやおすすめの店の情報などを発信している。
何かをやってみたいけれど不安で動き出せない人の背中を押し、まち全体を考える視野を持つ樋口さん。気負うことなく自然にお客に寄り添うからこそ、星時は居心地のいい店になっているのだろう。
コラムニスト紹介
津田 令子 氏
社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。