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〈旬刊旅行新聞11月21日号コラム〉安易な旅は死よりも退屈 知的好奇心くすぐる旅を自ら探そう

2019年11月21日
編集部:増田 剛

2019年11月21日(木) 配信

知的好奇心、冒険心をくすぐる旅を自ら探そう

 毎年秋が深まり、冬の足音が近づいてくると、東京・外苑前の銀杏並木が黄色く色づいた美しい風景を見たくなる。

 
 先日、よく晴れた休日に「銀杏並木を見に行こう」と、オートバイに乗って、国道246号線を都心方面に走らせた。

 
 新しい“旅の相棒”であるオートバイにも少しずつ慣れてきており、晩秋の風を全身に受けながら快走した。
 
 道路はそれほど混んでなく、相模原を出発してから約1時間で渋谷、青山を通り過ぎ、外苑前に辿り着いた。
 
 しかし、目当ての銀杏並木は青いままだった。だからと言ってそれほどガッカリもしなかった。ほかに行く場所もないので、青山通り沿いの近くのカフェに立ち寄って、熱いコーヒーを飲みながら、何とはなしにお洒落な東京の街並みを眺めた。
 
 私の休日とは、こんなもんだ。この程度の刺激のない旅を繰り返している。目的の場所が宮ケ瀬ダムや服部牧場、横浜のレンガ街など、その時々で変わるが、バリエーションは少ない。こんな日々に、少し飽きている。脳や心に刺激が足りないのだ。青いままの銀杏並木にまったくガッカリしなかった自分の平板な心がすべてを物語っている。
 
 最近は、酒をあまり飲まなくなった。仕事は別にして、プライベートで外に行って酒を飲むことはほとんどなくなった。どこにでもある居酒屋チェーンで薄いサワーを飲みながら、濃い味の肴を注文して、誰かと酔いながら話をするのが苦痛に感じる。これまで何十回、何百回と経験してきた惰性的な時間の過ごし方に、退屈してきているのだ。やる前から、やった後のことを想像できてしまう安易な遊び(?)に時間と労力を費やすのは、もうやめようと最近強く思い始めている。
 
 一方で美味しい料理やお酒が味わえるのなら、どこにでも行きたい気持ちだ。「少し値段が高くてもいい」と思っている。
 
¶ 
 
 外苑前の銀杏並木を見に行った前の週は、「温泉に行きたい」という息子たちと、クルマで箱根の日帰り温泉に行った。その帰りに小田原港に寄って、海鮮丼を食べた。何度も行くお決まりの半日コースの旅だったが、息子たちとの旅は久しぶりだったこともあり、忘れかけていた昔を思い出してしまった。
 
 息子たちが幼いころ、古いミニバンに乗せて北海道や青森の恐山、和歌山の高野山、鳥取砂丘、愛媛の道後温泉、鹿児島の桜島も駆け巡った。山奥の道なき道に入って秘湯巡りもしたし、色々な海で釣りもした。文字通り、日本中を走り回った。ちょうど「高速道路料金上限1千円」政策の恩恵を多分に受けた時期だった。旅館の大きな宴会場で宿泊費を安く済ませたこともあった。どんなに安い居酒屋でも、みんなで料理を食べ、薄い水のようなサワーを飲んでも楽しくて、楽しくて仕方なかった。どの旅もキラキラに輝いていた。
 
 しかし、そのような瑞々しい感覚は今、自分の中のどこを探してもない。時折、何かの拍子で短い映画のように思い出されるだけだ。大人を長く続けるということは、こういうことだ。
 
 結果のわかりきった安易な旅なら、しなくていい。死よりも退屈だ。知的好奇心と冒険心をくすぐり、心を湧き立たせる旅を自ら探して、実践していこうと思う。
 (編集長・増田 剛)

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