「トラベルスクエア」ラグビーW杯客が観光地を変える
2019年11月23日(土) 配信
ラグビー・ワールドカップの試合が多く開催された大分方面から伝わってきた話題だ。
アジアでのラグビー国際大会の開催を疑問視する声もあったけれど、結果的には多くの外国人が押し寄せて、日韓問題などで韓国からのインバウンド客数減の影響が懸念されていたけれど、なんとか帳尻があった。
いや、入国者数そのものよりも、欧州やオセアニア、米国などからやってきた人たちが、開催地の雰囲気によく溶け込んでくれたようすで、それを率直に喜びたい。
とくに多くの温泉地を背後に持つ大分では、温泉や地元グルメにはまる人が多かったようだ。時に騒ぎすぎの例もあるけれど、彼らの開けっぴろげで、楽しく地元民と交流してくれたこと自体が、観光地の夜の姿を変えてくれたという。
なにしろ、ラグビーファンは左手を常に空けておかないという不文律がある。左手はジョッキを持つためのもの。そして右手は敵味方を問わず、握手するためのものということだから、別府でも由布院でも、そういうビールで乾杯、握手の連続で実にフレンドリーな雰囲気になったという。
ふだんのアジア系団体の皆さんは、夜は割とひきこもりがちで、地元民との交流も少ないが、今度の客層は違う。「観光地の雰囲気って、最後はお客さんが作るんだなあ」と、わざわざ携帯電話で思いを伝えてくれた経営者がいたほどだ。
とてもポジティブでいいことだ。ワールドカップは地方分散開催で、それが良かった。2020年の五輪のマラソン・競歩が札幌開催になったのには釈然としない面もあるけれど、地方振興、これで納得。
これをきっかけに、インバウンド何百万人と数を競うのではなく、やはり質を求めていくことをメインロードにしなければいけないと思う。
ただ、「個人客狙い=高級客狙い」という考えだけではいけないと思う。たしかにラグジャリーマーケティングもありだが、最初からそれを狙うと鼻つく感じもある。
品質を高めていったら、結果的に「ややお値段は高いけれど、とても有意義なお金だった」と言われるような作戦をとろうではないか。
今年、巷で聞いた言葉で一番嫌だったのは「上級国民」という言葉だった。とある自動車事故を起こした老人が元官僚のお偉いさんで、上級国民に属するから起訴もされず、人名もさらされなかった、という怨嗟の念を表現したものだ。あってはならない言葉だが、一方で、そういう排他的なエリート集団ができつつあるような気もする。
上級国民ではなく、高質国民、好質市民を目指したいと思うし、宿もそういう国民に支えられ、品のいいものになってもらいたいと痛感する。
コラムニスト紹介
オフィス アト・ランダム 代表 松坂 健 氏
1949年東京・浅草生まれ。1971年、74年にそれぞれ慶應義塾大学の法学部・文学部を卒業。柴田書店入社、月刊食堂副編集長を経て、84年から93年まで月刊ホテル旅館編集長。01年~03年長崎国際大学、03年~15年西武文理大学教授。16年~19年3月まで跡見学園女子大学教授。著書に『ホスピタリティ進化論』など。ミステリ評論も継続中。