「観光ルネサンスの現場から~時代を先駆ける観光地づくり~(178)」文化資源を活用した地域づくり(福井県小浜市)
2019年11月25日(月) 配信
文化財の保全と活用は古くて新しい、しかも難しい問題である。だが、2016年3月に政府が示した「明日の日本を支える観光ビジョン」は、「保存優先から、地域文化財を一体的に活用する取組への支援に転換する」として、文化財活用に大きく舵を切った。日本遺産や日本博などの取り組みは、まさにその象徴である。
「観光ビジョン実現プログラム2019」では、インバウンド客4千万人を見据えて、国立博物館・美術館の夜間開館、寺泊や城泊、スノーリゾートの再生など、地域の新たな観光コンテンツ開発に取り組んでいくことなどが示されている。
他方、文化庁でも、18年の文化財保護法改正(今年4月施行)によって、都道府県による文化財保存活用大綱の策定、市町村の「文化財保存活用地域計画」の策定を支援する制度を創設した。この背景には、過疎化・少子高齢化などの中で、各地の貴重な文化財の滅失・散逸などが深刻な事態になっていることがある。同時に、有形・無形の文化財をまちづくりに生かし、文化財継承の担い手を確保し、地域社会総がかりで取り組める体制づくりを整備することで、地域文化財の計画的な保存・活用の促進、地方文化財保護行政の推進力強化をはかることが狙いである。
これは、文化財行政を“見える化”し、市町村における文化財の保存・活用の総合的なアクションプランを示すことでもある。
そんななか、全国に先駆けて、文化財保存活用地域計画の策定に取り組む福井県小浜市を訪ねた。小浜市は隣の若狭町とともに、11年に「小浜市・若狭町歴史文化基本構想」を策定した。「御食国若狭の継承、そして発展―若狭の文化・食にあり―」のタイトルに見られるように、かつての「御食国」をテーマに食を核とした基本構想を描いた。今回の地域計画は、この構想のいわばアクションプランでもある。すでに3回の地域計画策定協議会を開き、来年2月に最終取りまとめを行って文化庁の認定を取り付ける予定である。
計画構想では、地理・テーマなどに基づく5つの関連文化財群ごとの保存活用区域を指定し、約10年間にわたる主要取組目標・事業を指定することになっている。その1つ、「京に繋がる鯖街道」のテーマは、15年に日本遺産第1号に認定された。鯖街道の海・町・道・山の拠点整備や、小京都の有名料理人の招聘、DMO「おばま観光局」との連携による京都からの誘客(御食国アカデミー)、養殖鯖(よっぱらいサバ)の新開発、へしこ、なれずしなどの鯖ブランドの発信など、すでに多くの成果を挙げている。
観光において地域の歴史・文化資源は大切な素材であり、地域の歴史文化こそが観光のブランドでもある。観光業界においても、こうした地域の歴史文化を深く学び、日本の真のブランドの理解と発信をお願いしたい。
(東洋大学大学院国際観光学部 客員教授 丁野 朗)