「観光革命」地球規模の構造的変化(219) アイヌ民族とウポポイ
2020年2月2日(日) 配信
麻生太郎副総理兼財務相が地元の福岡県直方市で開催した国政報告会で「2千年の長きにわたって、1つの民族、1つの王朝が続いている国はここしかない」と発言して物議を醸している。麻生氏は総務相時代の2005年にも「日本は1民族、1言語、1文化」と述べた過去がある。単一民族発言は、1986年の中曽根康弘首相や、2008年の中山成彬国土交通相などが行っており、自民党政権下で繰り返されてきた実績がある。
言うまでもなく、昨年4月に成立したアイヌ施策推進法はアイヌ民族を法律で初めて「先住民族」として明記している。そういう意味では安倍政権の要職である副総理の麻生氏が、アイヌ民族の存在を無視する発言を行うのは言語道断であり、安倍首相の任命責任が問われる事態だ。
政府は今年4月に北海道白老町ポロト湖畔にアイヌ文化復興・創造拠点として「民族共生象徴空間(ウポポイ)」を開設予定である。愛称の「ウポポイ」はアイヌ語で「(おおぜいで)歌うこと」を意味している。
ウポポイでは、アイヌ民族の歴史や文化を展示する「国立アイヌ民族博物館」、多様な体験プログラムを通してアイヌ文化を五感で楽しめるフィールドミュージアムとしての「国立民族共生公園」、アイヌの人々による尊厳ある慰霊を実現するための「慰霊施設」などが整備される。ウポポイは札幌から約1時間、新千歳空港から約40分の好アクセスであるために、政府はウポポイへの年間来場者数100万人達成を目指している。
先住民族観光の未来にとって100万人入場を目指すウポポイは重要であるが、十勝管内の浦幌町アイヌ協会が国と道を相手にした訴訟も重要だ。現在、水産資源保護法などでサケの捕獲は厳しく規制されている。
ところが浦幌町アイヌ協会のメンバーは昨年、アイヌ民族の伝統的儀式のためにサケを捕獲したが、規制違反で問題になった。そのため先住権に基づいて規制の適用がなされないことを確認する訴訟が行なわれているわけだ。
政府はウポポイ事業の成功を目指して、巨額の国費を投入しており、先住民族観光が大きく進展する可能性が高い。この機会に日本の先住民族としてのアイヌの人々の歴史や文化が正しく理解されることを祈っている。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。