「津田令子のにっぽん風土記(58)」ふるさとに思いを馳せて~ ふるさと編 ~
2020年2月12日(水) 配信
「ふるさと」の意味を三省堂の辞書で調べてみると「生まれ育った土地。故郷」。(比喩的に)精神的なよりどころと記されている。さらに「かつて住んだり、訪れたりしたことのある土地。古くからなじんでいる里」とも書いてある。昨年「ふるさとの旅を考える会」を結成した原口さんに「ふるさと」や「まち」への思いをうかがった。
熊本生まれの原口さんは、国鉄に勤める父親の仕事の関係でこれまでに7回ほど居を変えてこられた。
「どのまちも好きですよ。寅さんではないけれど、オヤジの関係で物心ついてから金沢を皮切りに日本全国を転々としてきました。どのまちで暮らしてもその土地に馴染み、寄り添い、まちの生き様を体感できたことはラッキーでした」と語る。
10年前にリタイアをしてからは、全国どのまちにもある名所を、いつもとは違う視点で歩いてみたいとの思いから「まち歩き」と「まちの観察」をライフワークに加えたという。16年前に麻布の地を終の棲家と決め、引っ越してこられた原口さんは、とくに江戸時代の面影をたどる東京の坂道や庭園を訪ねるのが好きだという。「あえて下を向いて歩けば普段見ることのできない地面(土地)の広がりがわかってきます」。地面の広がりとは、その土地の特徴や、取巻く環境、歴史背景のことなのだと話す。
「ちょっと遠出をして山間のまちや海沿いの神社仏閣を訪ねれば忘れかけていた日本の原風景に出会えます。皆さんも、まずは近くのまちや海、山をのんびり歩くことから始めたらどうでしょうか。歩き旅ならではの楽しさを実感できます」。
ふるさと(熊本)まではなかなか行けないけれど熊本に思いを馳せることのできる場所が東京にある」と原口さん。それは目白にある肥後細川庭園と国宝を含む細川家伝来の美術品を展示している永青文庫だという。
先日、雪吊りなど冬支度でにぎわう庭園を案内いただいた。目白台の台地の自然景観を生かした見事な池泉回遊式庭園だ。「この公園周辺は、江戸中期以降は旗本の邸地になり、江戸末期には清水家や一橋家の下屋敷となり幕末には熊本54万石の細川侯の下屋敷に、1882(明治15)年には細川家の本邸となりました」。そうそう、原口さんの名前は細川家14代当主・細川護久侯の教えを貴ぶお父様が名づけたという。
「会員同士がふるさとに思いを馳せ、これからの旅への提案など、いずれ本にまとめたい」と力強く語った。
コラムニスト紹介
津田 令子 氏
社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。