「提言!これからの日本観光」 “観光”と(携帯)“荷物”
2020年2月14日(金) 配信
最近「観光公害」などと言われる現象が目立ってきた。観光客が増加し、大都市圏や特定の観光地に集中するため交通機関の異常混雑、道路渋滞などが起こって、地元市民の生活にも影響することが「公害」という言葉で示されている。京都や鎌倉などの混雑は異常というほかない。しかし、混雑の大きな原因は観光客の携行する「荷物」ではないかと思う。
トランクにキャスターがついて、旅行者の荷物に対する対応感覚がまったく変わったと言われる。大きい重い荷物も楽に転がして運べるようになり、主要駅にいた手荷物運搬人である赤帽は完全に消滅。各地の荷物預かり所の荷物の中身も大きく変化したと言われる。これまで、観光客は移動の際、荷物は別途送付していたが、自ら携行するようになった。子供を荷物の上に乗せ、楽しそうに荷物を転がしている人さえ見掛けた。
筆者の体験として訪日客が観光地でバスや電車などに乗降する際、大型荷物が狭い出入口付近などをふさぐ光景を再三見掛けた。ほかの利用客の乗降が妨げられ、遅延の発生や乗車できないことなどの原因になることに気付いた。
荷物は重いため利用客は新幹線などで、大型荷物を網棚へ上げ下ろしすることが難しい。一部の大型荷物は通路に置かれたままで、車内の通行の妨げになり、混雑感を高めている。とくに、自由席でこの現象が目立つと感じる。取っ手を引いて、キャスター付きの荷物を運ぶ場合、歩行者が荷物と持ち主の間に挟まれ、足をキャスターで踏み付けられてケガをしたり、転んだりすることが少なくない(筆者も最近、数度恐い思いをさせられた)。
このような経験から、各地で生じているバスや電車などの異常混雑は、大型荷物の携行による出入口の混雑と、通路に置かれた荷物による移動困難などによることが大きいと考える。筆者は入口混雑で空席があるのに、客が乗車できず、発車するバスさえ見掛けた。
もちろん、対策も講じられている。京都市営バスの観光路線では、従来、後ろ乗り前降りだったが、運転士が乗車整理を行いやすいよう前乗りに改めるなどしている。
東海道新幹線などは、大型荷物の収納箇所の増設や予約制も予定している。駅や駅周辺などでは一時預かり所も増やしている。手ぶら観光を促し、荷物を後に引いて歩く場合に生じる1人に対して3人分の交通量になる異常混雑緩和をはかりつつある。
戦前の鉄道会社では車内に乗客が荷物を持ち込まないようにするために“チッキ”という制度があった。駅で乗客の荷物を預かり、乗客と同じ列車で運ぶ。到着後、乗客に荷物を引き渡す。しかもこの取り扱いは無料だった。イギリスの鉄道にならったもので、車内混雑を緩和していた。
技術が発達し、生活習慣も変わりつつある現在、観光と“荷物”の新しいあり方を抜本的に見直し、「観光公害」を防ぐことが求められていると思う。
日本商工会議所 観光専門委員会 委員