観光庁、観光業で働く女性活躍へ 「知らせる」「整える」「育てる」柱に 第4回推進検討会開催
2020年3月2日(月) 配信
観光庁は2月18日、女性がより活躍できる観光先進国を見据え、「第4回観光分野における女性活躍推進に向けた検討会」を開いた。今年度最後となる会合では、長野県・蓼科で観光業に従事する母親たちが立ち上げた「休日子育てシェアハウス『山ん家』」の事例を紹介しながら、課題を整理した。検討会は次年度も継続し、今後の方向性は「知らせる」「整える」「育てる・引き上げる」の3本柱で、関係省庁や民間企業、大学などと連携して進めていく方針だ。
【入江 千恵子】
【入江 千恵子】
□産学官連携で次年度も継続
女性の管理職不足 労働継続の難しさ
観光庁の髙科淳国際観光部長は昨年8月から行われてきた過去3回の検討会を振り返り、「観光業の成長に伴い、就業機会の拡大や仕事の多様性から女性活躍を進めるうえで、成長の伸び代が大きい分野であることが見えてきた」と述べた。
今回の検討会の前半では、各地の現状と課題を問うアンケートの結果報告と、地域の具体的な取り組みが紹介された。
アンケートは「女性活躍の現状・課題」について、昨年11月22日―今年1月10日に実施。各地の観光協会や観光関連企業など18団体にメールを送信し、17団体39人から回答を得た。
すべて自由記述式とし、「ダイバーシティの向上による効果で想定されることは」との設問には、女性中心によるプロジェクトが新しい発想を生み出したことや、個々のライフスタイルを重視することで生産性が向上した事例などが寄せられた。
これらの回答から、検討会では「地域観光と女性活躍」は、経済産業省が定義する「ダイバーシティ経営の成果」と同様に、①プロダクトイノベーション②プロセスイノベーション③外的評価の向上④職場内の効果――の4つに分類できると分析した。
別の設問の「女性として仕事をする際に課題と感じていること」については、「現場に女性のリーダーが少なく、意見を反映できる機会が少ない」や、「女性が目立つと『生意気だ』となる」、「休日、時間外に子供の預け先がなく辞めてしまう」などの意見があった。
以上のことから見えてきた課題は、①管理職(女性が少ないまたは不在、経営に女性の視点が不足)②キャリアアップ(スキル面の不足、マインド醸成の難しさ)③労働の継続(土・日・祝日・夜間に人手が必要という業界特性・風土から仕事と家庭の両立が難しい)――の3つに整理できるとした。
「今後、女性活躍を推進していくために必要な取り組み」の設問には、女性幹部の登用について「比率を強制的に決めてでも推し進める必要がある」といった意見や、女性が働きやすい環境整備として「休日に深夜まで運営している保育施設の開設」などが挙がった。検討会では、実現には政府や経営者、組織の主導や協力が必要になってくるとの考えをまとめた。
□長野県・蓼科の事例
地域の具体的な取り組みは、長野県・蓼科にある休日子育てシェアハウス「山ん家(やまんち)」(長野県・立科町)の代表・矢島麻優美氏が発表した。観光業で喫緊の課題となっている、母親の休日の働き方と子育ての両立に向けた活動を行っている。
「山ん家」は、親が観光業で働く子供たちが休日に集まれる場所として、母親たちが昨年のゴールデンウイーク10連休を前に開所した。手の空いている大人が助け合いながら、子供たちを見守ることをコンセプトとしている。
蓼科は白樺湖や霧ケ峰高原などがあるエリアで、県内の観光地利用者数は軽井沢高原、善光寺に次いで3番目に多い。このような土地柄を背景に、職場が忙しい休日に働きたいと思う親と、休日に構ってもらえずストレスを抱える子供の、双方の課題を抱えている。
「山ん家」では自然を生かした課外活動のほか、地元の観光施設を楽しむイベントを実施。会員のレストランで開くテーブルマナーや、プロスノーボーダーによるスキー場でのイベントなど、身近な人材と観光資源を最大限に活用している。
矢島氏は「子供たちが観光地で遊ぶ楽しさを知ることで地元のファンになり、やがて戻って来たいと思うことで雇用につながるのでは。いま地域が頑張ることで、未来への投資になる」と「山ん家」の重要性を訴えた。
一方で、課題には資金不足がある。利用料は小学生1人当たり月額6千円(未就学児は茅野市と協働でファミリー・サポート・センター事業を活用)。会員数は親22人、0歳―小学生までの子供40人(20年1月現在)となっている。スタッフへの謝礼金は、「1時間当たり500円」とボランティア状態となっているのが現状だ。場所は、大型リゾートホテル「池の平ホテル」の隣にある一軒家を利用し、昼食は同ホテルの社員食堂から無償提供を受けている。
常用スタッフを確保できないことなどから、開所は土曜日のみとなっている。利用料について矢島氏は「どのような人でも預けられるよう、金額を設定した。預けるために働くのは趣旨が違う」との考えを述べた。
資金繰りには「山ん家子育てシェア基金」を設立し、周辺の事業所などに営業活動を行っている。個人は年額1千円から1万円の3種類、法人は年額5千円から30万円の4種類を設けている。矢島氏は運営資金について「限界がきている状態」とし、そのうえで「『山ん家』に子供を預けることで、優秀な人材の確保や雇用継続が可能になる」と多くの協力を呼び掛けた。
最後に「休日に預けられる場所が『あったらいいな』と思いながらも、子供がすぐに大きくなってしまうこともあり、多くの人が声を上げずにきた。しかし、誰かがやらなければならない」と述べ、施設存続の必要性を改めて強調した。
□交流の場持ちたい 国際観光シンポも
検討会は次年度も継続する。今後の取り組みについては、①知らせる②整える③育てる・引き上げる――の3本柱で、各省庁や業界団体、民間企業、大学などと連携して進めていく。具体な施策案として「知らせる」は、就業機会拡大の周知活動やマッチング機会創出などのほか、観光業の魅力を伝えるセミナーなどを実施していく。
「整える」は、働き方改革や人材確保、定着率向上を目指す。リモートワークなど柔軟な働き方や復帰サポートなどの事例展開、宿泊業における日・祝日の子供の預け先確保などに取り組む。
「育てる・引き上げる」は、管理職層から経営層への登用事例の創出や観光業でのキャリア再発進する人にセミナーなどを通して支援を行う。
観光庁国際観光部の町田倫代参事官(国際関係)は「4回の検討会を経て、さまざまな気づきがあった。これらを踏まえ、3本の柱を立てた」と述べた。さらに、G20観光大臣会合での合意事項を着実に行うため、「『女性活躍アクションプランの実行』の趣旨で、次年度は国際観光シンポジウムを開催したい」と語った。
そのうえで、「観光業の就業機会の拡大や認知度向上などを目的に、幅広い年齢層に加えて観光業の企業にも参画いただき、交流の場を持ちたい」と明かした。
観光庁では、次年度の女性活躍推進関連予算(案)を、観光産業における人材確保・育成事業や国際観光シンポジウム開催などに充てていく。