サービス連合、持続可能な観光立国を考える 観光政策フォーラム開く
2020年3月4日(水) 配信
サービス・ツーリズム産業労働組合連合会(後藤常康会長)は2月26日(水)、東京都内で第5回観光政策フォーラムを開き、基調講演とトークセッションを開いた。「持続可能な観光立国~これからの観光産業に求められるもの~」をテーマに、持続可能な観光立国の実現に向けて、必要な政策などを議論した。
後藤会長は冒頭、2019年の訪日客数と海外旅行者数が過去最高を記録したことに触れ、「観光立国の実現に向けて、期待が高まっている。(同フォーラムを)観光業の持続可能な発展を考える会にしたい」と意気込みを述べた。
来賓として立憲民主党の枝野幸男代表と、国民民主党の大塚耕平代表代行、観光庁の奈良和美参事官が出席した。
立憲民主党の枝野代表は、新型コロナウイルスについて「短期的には観光客が減少している」としたうえで、「事業と雇用が継続できるように取り組んでいる。収束後は産業として次の時代を担う太い幹に育てる」と観光政策に注力する方針を示した。
国民民主党の大塚代表代行は「(新型コロナウイルスの)影響は最小限にするよう努力することを約束する。収束後は観光立国の実現に向けての課題解決や前進をサポートする」と話した。
奈良参事官は新型コロナウイルスへの取り組みとして、「観光庁では感染予防の徹底と風評被害の防止のほか、中小企業を中心に、資金繰りなどの支援を行っている」と語った。
□「多様性ある観光資源活用」と「受入体制の強化」を
基調講演には、小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏が登壇した。
アトキンソン氏は冒頭、日本で観光立国を実現するべき理由として、「人口減少社会を迎える前に、経済の縮小分を生産性を高めることで補わなければならない」と語ったうえで、「一番のポイントは消費額を増額すること」と説明した。
そのうえで、日本における課題として、「多様性のある観光資源を生かせていないこと」、「受入の整備が不十分であること」、「DMOの役割」、「5つ星ホテルが少ないこと」――を挙げた。
「多様性のある観光資源を生かせていないこと」については「世界のすべての国の人が求めることは『自然』」と強調した。そのうえで、日本は緯度がロシア・シベリアとほほ同じの北海道から亜熱帯の沖縄まであることをはじめ、綺麗な海やスキー場、温泉などの観光資源を十分に活用できていないことを指摘した。
一方、歴史や文化、地元料理を中心に誘客をはかることには、否定的な意見を示した。訪日客へのアンケート結果から、文化に対する興味は全体の20~30%ほどで、歴史文化体験を行ったのは約25%だったことを理由に挙げた。さらに、2回目以降の訪日で、日本食を食べた人の割合は58%だったことも示した。
アトキンソン氏は、「受入の整備が不十分であること」の事例として、観光地の解説案内板における英語の表現方法を挙げた。
具体例として、「訪日客は徳川家康を『Tokugawa Ieyasu』と訳されても人か物か、存命かさえも、分からない」と日本人の常識で案内している点を指摘。「訪れる人の知識レベルに合わせる必要がある」と主張した。
DMOの役割については、受入体制の整備を最重点に置くべきとの考えを示した。
アトキンソン氏は「優れた受入体制であれば、クチコミが自然と広がり、集客につながる。平均で75~80%を掛けている情報発信や調査費用などで、集客をはかるより、受入整備に費用を使う方が効率がいい」と説明した。
このほか、DMOの役割は、地域の観光事業者の問題をまとめることや、各事業社における観光庁のスキー場開発補助などの予算使用状況を確認することだとした。
富裕層の誘客には、5つ星ホテルの増加を最も取り組むべき課題として挙げた。「(富裕層は)優れた観光資源があっても、5つ星ホテルがないと訪れない。人気の山にある山小屋には泊まらない」との考えを示した。