神社を地域の防災拠点に 東日本大震災で被災した閖上湊神社(宮城県名取市)無償再建へ
2020年3月5日(木) 配信
災害被災神社再建・地域振興プロジェクト実行委員会は2月27日(木)、東日本大震災で被災した宮城県名取市の「閖上湊(ゆりあげみなと)神社」を無償再建すると発表した。地域の防災拠点になるための再建を行い、地域復興を支援する。
2018年から始まった同プロジェクトは、地震などの災害で甚大な被害を受けた神社仏閣を毎年1棟のペースで再建し、無償寄贈する取り組みを行っている。
第1弾は熊本地震で倒壊した白山姫神社(熊本県・西原村)を、第2弾は東日本大震災で被災した諏訪神社(福島県・浪江町)の再建を行った。今回の閖上湊神社が第3弾となる。
実行委員会は、建売住宅などの販売を行う創建(吉村卓也社長、大阪府大阪市)を中心とした創建グループと、レジリエンスジャパン推進協議会、再建対象神社の3者で構成する。
再建プロジェクトに選ばれた閖上湊神社の伊藤英司宮司は、東日本大震災の被害にについて、「津波ですべて流出し、約6000人の住む町が一瞬にして壊滅した」と振り返った。
閖上地区では高さ9㍍9㌢の津波を記録。753人が命を落とした。「氏子のすべてが被災者となり、私も30人ほどの仲間を失った。一時は神職の廃業を考えた」と声を詰まらせた。
その後、国内外から多くの励ましもあり、神社の継続を決定。再建費用1億5000万円を工面するため募金活動や国の制度などを活用したが、震災後約9年間で集まった金額は再建費用の4分の1程度にとどまった。
「年々、東日本大震災が風化しているのが現状。なかなか募金が集まらなかった」とつらい胸の内を吐露。今回のプロジェクトに選ばれたことについて、「このような時にご縁をいただいた。神社が地域の心のよりどころとなり、震災を忘れず後世に語り継ぐ場所になるよう奉仕していく」と力を込めた。
施工は、創建グループで住宅販売などを行う、木の城たいせつ(吉村直巳社長、北海道夕張郡)が行う。宮大工の技術を生かした独自の木組み工法を取り入れる。着工予定は今年6月で、10月末の完成を目指す。
主催者を代表し、創建の吉村孝文会長は「神社仏閣が被災した人を救える場所になってほしい」と同プロジェクトへの思いを述べた。さらに「新しいテクノロジーを持つ会社と組みながら、事業に取り組んでいきたい」と意気込みを語った。
会見に続いて行われたフォーラムでは、「神社やお寺を防災拠点にすることの重要性、防災の新たなかたち」をテーマに行われた。
レジリエンスジャパン推進協議会総研所長の金谷年展氏と創建の会長・吉村孝文氏、木の城たいせつの社長・吉村直巳氏、元復興庁復興推進委員会委員の横山英子氏、アクアム(東京都港区)の社長・河﨑悠有氏、セイクン(愛知県名古屋市)の社長・上野晃氏が登壇した。
金谷氏は、被災神社再建プロジェクトのコンセプトについて「避難拠点になるなら、作るときから2次災害の軽減を考え、最先端の技術を取り入れたらどうだろうと考えた」と語った。
今回、閖上湊神社に無償寄贈される最新防災設備についての紹介も行われた。河﨑氏は、空気から水を作り出す「製水器」について説明した。水源は電力で、1日200㍑の飲料水を作ることが可能。1人3㍑使用した場合、66人分の飲料水が確保できる。「神社に行けば水が手に入るといった安心感も、災害時は大切なのでは」(河崎氏)と語った。
上野氏は、カミナリ被害を防ぐ避雷針について説明した。従来の電荷を1カ所に集めて落雷させる避雷針と異なり、同社はカミナリと電荷を中和させて落雷現象を起こさせない避雷針を開発。「落雷による停電などを回避することで、防災拠点を守ることができる」(上野氏)と述べた。
吉村孝文氏は最後に、「5年前に北海道で神社の仕事に携わったのがプロジェクトを始めるきっかけとなった」と振り返った。「再建した神社を寄贈できることはありがたく、喜びでもある」と語り、「今後も安心・安全な街と住宅を提供していく」と意気込みを語った。