「観光革命」地球規模の構造的変化(221) 新型ウイルスと観光立国
2020年4月1日(水) 配信
昨年12月に中国・武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)は今年3月に入ってから新しいステージに突入した。WHO(世界保健機関)は3月11日にコロナを「パンデミック(世界的大流行)」と判断した。これはギリシャ語のパン(すべての)とデモス(人々)が語源の英語で「世界中の人々に感染する可能性のある病気が、制御不能で大規模に流行している状態」のこと。当初コロナは東アジアを中心に感染拡大していたが、既に全世界に拡大している。3月18日に世界全体の感染者数は20万人であったが、20日に25万人を超え、22日に30万人を超えた。まさにコロナショックが全世界に急速に拡大している。
イタリアは中国に次いで「第2の震源地」になっており、死者数が中国を超えて世界最多を記録。フランスのマクロン大統領は「私たちはコロナとの戦争状態にある」と述べ、国民に外出禁止を要請。ドイツのメルケル首相は「第2次大戦以降で最大の困難に直面している」と演説し、移動の自由の制限に言及。トランプ米大統領は「第2次大戦以来の大規模な危機対応が必要」と訴え、米国民に対してすべての海外渡航の中止を勧告すると共に、欧州からの入国禁止、隣国との国境封鎖を実施している。
コロナショックによる世界的な景気後退懸念が強まり、2月に入ってから主要国の株式市場で記録的な株安連鎖が発生。トランプ政権は11月の大統領選を視野に入れて、大型景気対策のために総額2兆㌦(約220兆円)規模の連邦政府予算の投入を表明。日本政府もトランプ政権と足並みをそろえて大規模な補正予算編成を表明。国民への現金や商品券の支給、外食や旅行代金への一部を国が助成することを検討すると共に、中小企業の資金繰り支援強化を行い、事業継続や雇用維持の支援を行う。そのための財源として赤字国債発行を検討。コロナショックによる健康危機や経済危機に対応して、先進7カ国(G7)首脳は政策総動員で取り組むことを確認している。
東京五輪については世界の主要な競技団体が延期を要望しており、国際オリンピック委員会による利害調整の難航が予想されている。東京五輪が延期になると、日本の観光・旅行産業は大きな打撃を受けることになる。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。