〈旬刊旅行新聞6月11日号コラム〉「ハズレ」は選びたくない 旅人も美味しい店を探す努力が必要
2020年6月11日(木) 配信
旅先の昼食は「賭け」であるが、私は大概負けている。勝率は2勝7敗1引き分けくらいのペースである。気合を入れれば勝つことは可能だが、気を抜くと必ず負けるというレベルだ。
旅先では誰だって美味しいものを食べたいと思っている。しかし、どうして私は「ハズレ」ばかりを選んでしまうのか。理由は自分でも分かっている。気を抜いて努力不足だからだ。
人気観光地の目抜き通りは、どの店もランチ時には満席になる。ようやく席に着いても、接客スタッフは忙しすぎて、前の客の食べ終えた器すら片付けてくれないし、水やメニューを持って来てくれない。やっと注文を聞いてくれても、そこから料理が出てくるまで1時間近く待つこともある。そして味は美味しくなく、料金は結構高い。このような店を選んだときは、気を抜いた自分の完敗である。
田舎の駅前に1軒しかない食堂も経験上、大体、惨敗してきた。鉄道での長旅に疲れ、降り立った駅前には、「期待感の乏しい」店しかない。他を探す気力もなく、やむを得ず、「今度こそは大丈夫に違いない」と自分に言い聞かせ、暖簾をくぐる。だが、あまりのやる気のなさが漂う雰囲気に「敗戦濃厚」の流れを感じ取り、店を出ようと思うが、行動に移す勇気を持ち合わせていない。
旅先なのに、壁に貼られた丼物や、カレー、ラーメンなどの品書きをしばらく眺め、「じゃあ、親子丼をください」と言う。なぜ自分は親子丼などを注文したのだろうと後悔する。
そのうち、案の定、卵などが煮すぎてカチカチに固まって、水分の少ない親子丼が出てくる。ご飯と具は完全に分離している。私は出された食事はほとんど残すことはないが、「どうしても無理な場合もあるのだ」と、そのときに知る。
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最近は負けが続き、精神的なダメージもじわじわと蓄積されてきている。行き当たりばったり派の私もさすがに地方の温泉地などに行くときは、前夜、用意周到に「ぐるなび」や「食べログ」などで美味しい店を調べて、真っすぐそこに向かう。
しかし、誰もが似たようなグルメ情報サイトを見ているので、人気店のスタッフが店の外で「行列の最後」という看板を持つような状態に愕然とし、仕方なく別の店を探す。
ようやく客のいない店を探し出して入ってみると、乾いた具と、ご飯が完全に分離している親子丼が出てきたりする。
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人気観光地で立地条件の良い飲食店は、誘客に苦労はしない。だから、そんなつもりはないにせよ、入店してきた客に対しても心の底からうれしそうな表情を浮かべないし、メニューも頻繁に変える必要もない。
集客力のある観光名所という絶大な力を頼りに、長い間、自ら「より良きものを追求する」努力を怠ってきた姿は、世界中で共通して見られる。
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私がこれまで美味しいと感じた店や、いい宿だと思ったところは、立地条件が悪いところが多い。それだからこそ、「よくぞこんなに遠くて辺鄙なところまで来てくれました」と心から歓迎してくれる。
私も現状の2勝7敗1引き分けレベルに甘んじているわけにはいかない。本気を出せば5勝2敗3引き分けくらいはいける自信はある。勝利したときの心地よさは格別である。勝率を上げるためには旅人も努力が必要だ。
(編集長・増田 剛)