「観光ルネサンスの現場から~時代を先駆ける観光地づくり~(185)」甦る縄文の森(島根県大田市)
2020年6月22日(月) 配信
4000年前の巨大な火山噴火で発生した、おびただしい土石流。その土砂に飲み込まれた樹齢600年を超えるスギの巨木が、幹を残してそのまま地底に閉じ込められた。その林立する森の一部が発掘され、そのままの姿で現れた。まさに想像を絶する景観である。
ここは島根県大田市の「三瓶山小豆原(さんべさんあずきはら)埋没林」である。長い時を超えて現代に甦った縄文の森は、まさに原始の日本列島の壮大な自然景観を伝えるタイムカプセルを見るようである=写真上。
三瓶山(標高1126㍍)は、溶岩の峰「三瓶山溶岩円頂丘群」からなる複数の山々でなっている。山裾はなだらかな草原が広がる丘陵地帯で、牛が佇む牧歌的な景観が広がる。火山性土壌のため水を引きにくい土地だが、江戸時代から牛馬の飼育とともに、屋根葺材の茅場としても使われてきた。
近代になると旧日本陸軍の演習場としても使用された時代があったが、三瓶山自然林のブナの森は、自然体験の好適地で、登山客も多く訪れる。山腹から湧き出る三瓶温泉は、国民保養温泉地にも指定され、ヘルスツーリズムの取り組みも盛んである。地底に眠る巨大な縄文杉とこれらの丘陵は、観光という面でも高いポテンシャルを持っている。
しかし大田市といえば、何よりも世界遺産石見銀山が有名である。この世界的な銀山は、三瓶山から少し離れた標高537㍍の仙ノ山の火山活動によって形成された。150万年前の噴火マグマで熱せられた金・銀・銅を含む地下水が地表近くで冷やされ、中に含まれた金属が固まることで銀の鉱床・鉱脈ができた。
これら鉱石の採掘は、地表面に露出した鉱石の露天掘り、鉱脈に沿って掘り進む「ひ押し」、鉱脈に対して垂直に掘る「横相」がある。石見銀山のシンボルでもある龍源寺間歩や大久保間歩は、この横相による坑道跡である=写真下。
他方、大田市の日本海に面する海岸線には、波根西の珪化木、仁摩の硅化木と呼ばれる特徴的な化石群がある。これらはグリーンタフに埋もれて化石となったもので、1500万年前の火山活動の産物である。
世界遺産石見銀山の物語は、既に多くの人々が知るところであるが、地理的にも年代的にも離れた三瓶山の小豆原埋没林や化石群などに共通するのは、年代を超えた地域の火山活動の産物である。
大田市は、広域地域を面的に活用しようと、共通項である火山の物語として編集した。そして「石見の火山が伝える悠久の歴史」というタイトルで、2020年度の日本遺産に申請した。本紙が出るころは、ちょうど認定の可否が発表されるころである。
日本遺産物語とともに策定した地域活性化計画や地域DMOの推進体制づくりが、世界遺産石見銀山を核とする広域地域の新たな魅力づくりにつながることを期待したい。
(東洋大学大学院国際観光学部 客員教授 丁野 朗)
訂正:上記の連載コラムの中で、所在地について誤りがありました。正しくは「島根県大田市」です。訂正してお詫びいたします。