〈旬刊旅行新聞7月1日号コラム〉2020年上半期の観光業界 コロナに翻弄され、新たな価値観も
2020年7月1日(水) 配信
2020年の半分が終わった。上半期を振り返ると、新型コロナウイルスに翻弄された6カ月間だった。
「もし、新型コロナウイルスの感染拡大がなかったとしたら」――仮想の世界を想像すると、今ごろは東京オリンピックの開幕を控え、多くの外国人が日本を訪れ、街を行き交い、テレビをつければ五輪関連の話題にあふれていただろう。
そういった意味で、このコロナ禍によって、世界中の人々の運命が大きく変わった。それも大多数が悪い方に、だ。
しかし、悪い方に運命が流れたとしても、「最小限の傷で抑えたい」と誰もが願い、「いつかは後退した分を挽回しよう」と思う。
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私も、運命について、常々考える。
今回のような世界規模の感染症の拡大や、自然災害など、人間個人の力では、どうにもならない、大きな悪い流れに直面したとき、慌てず、その得体の知れない力や、流れに逆らわないように心掛けている。
大自然の強い川の流れに抵抗して逆行しようとしても、短い時間で体力も、気力も奪われ、尽き果てていく。
それなら、自然体で体力を温存しながら流されるままに任せる。だが、頭は冷静に研ぎ澄まして、掴まることができる小枝が見つかることを、また、岸に近づいていくタイミングを虎視眈々と狙う。
そして、その機が訪れたとき、温存していた体力を惜しみなく使い、全力で泳ぐ。おそらく、チャンスは1度しかない。それを逃したら、浮かび上がることは難しい。
一方、自分のちっぽけな力を超越した、あまりに良過ぎる流れも、底知れぬ怖さを覚える。だから、そのような流れを感じたときには、例えば“快適なバスを途中下車して、自らの足で歩く”方を選ぶ。
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コロナ禍前の観光業界を思い出すと、東京や大阪などの大都市圏のホテルの稼働率は100%に限りなく近づき、出張の予約も至難の業だった。ホテルのオープンラッシュは続き、宿泊費は高騰を続けていた。
これは、日本だけではなかった。世界的に人は国境を越え、ビジネスや観光を拡大していった。
コロナ禍前夜の観光業界の大きな課題は、オーバーツーリズム(観光公害)だった。
だが、新型コロナウイルスの発生と感染拡大によって、世界は180度変わった。
今年5月の訪日外国人客数は前年同月比99・9%減のわずかに1700人だ。このような状況を迎えるとは、年始の時点では思いもしなかった。
コロナ禍によって、我われは深い滝つぼへと垂直に落下しているのだろうか。いや、私はそのようには思わない。
人は感染を恐れ、交流の制限が今も続いている。しかし、これによってビジネスや、学校、そして観光ですら、進まなかったオンラインによる効率化が、一足飛びで前進した。リモートワークも自然なかたちで定着しつつある。
今後、価値の多様性がさらに進み、同時に、今は目に見えないが、もっと進んだ新たな価値観の到来の気配を感じている。
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激変の時代の大きなうねりに流されながら、呑み込まれないように、小さな枝を掴まなければならない。できることから始めたい。
(編集長・増田 剛)