【特集No.557】ウィズコロナ時代のサービス 屋形船の新しい楽しみ方模索
2020年6月30日（火） 配信
ウィズコロナ時代の新しいサービスがさまざまな場面で求められている。旅行新聞新社が主催する「プロが選ぶ水上観光船30選」に選ばれている屋形船晴海屋（東京都江東区）、船清（東京都品川区）は、「食」や「船」といった資源を活用し、地域の人々への情報発信や東京の水辺の魅力発信に注力している。座席数や、団体客の受入人数も減らしての運航に切り替えるなど、大勢の人がにぎやかに過ごすことが魅力の屋形船で、新しい楽しみ方を模索している。両社の取り組みをまとめた。【後藤 文昭、木下 裕斗】
□屋形船晴海屋
“江戸の粋”を今に伝える
「屋形船晴海屋」は、“江戸の粋”をコンセプトに、「江戸らしさ、屋形船の素晴らしさ」が伝わるよう、細部にまでこだわったもてなしをモットーにしている。船内では、旬の食材をふんだんに使用した手作りの会席料理が味わえる。中でも毎朝豊洲から仕入れる新鮮な江戸前穴子を1匹ずつ捌き、船内で揚げるアツアツの天ぷらは絶品。花見が楽しめる春と、花火大会が行われる夏はとくに多くの人でにぎわう。
しかし今年は、新型コロナウイルス感染症の流行に伴う政府の緊急事態宣言を受け、5月31日まで休業。花見時季の運航ができず、東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催に伴い、例年より早めに設定されていた隅田川花火大会なども中止となり、花火鑑賞のプランも実施できない状況になった。
営業再開後は、安心して楽しんでもらうことを第一に、ゆったりと遊んでもらえる環境の整備に全力を尽くしている。
船内にはオゾン発生装置を設置し、空間除菌を実施。船内やデッキおよび船内備品のアルコール消毒と船内の換気も随時行う。ソーシャルディスタンス保持の取り組みとしては、使用できる席数を半分に減らし、席と席の間隔を空けるだけではなく、非対面になるよう配席する。
貸し切り屋形船の最少人数は10人に引き下げ、大人数の団体利用時は船を分けて案内する。
こうした安全対策を施したうえで営業再開を迎えた晴海屋だが、安田進取締役は「正直喜べない」と胸の内を語る。「今ある約70の事業者すべてが営業再開して、運航できたときが、本当の屋形船の営業再開。江戸時代から隅田川、現代ではお台場に提灯がひしめきあう光景が今の文化を形成した。1艘、2艘が運航しているからといって、伝統が守れるわけではない。すべての船宿が屋形船を出してこそ、文化は継承される」と語る。……
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□船清
“一期一会”でファン獲得
「船清」は、隅田川以外のエリアで営業を始めた、初の屋形船だ。“一期一会”をキーワードに、利用客とスタッフ間をはじめ、利用客同士のコミュニケーション促進に力を入れている。
出港前には伊東陽子女将が「皆様が楽しいひと時をお過ごしになれますように」と乾杯のあいさつを行う。このほか、誕生日や特別な記念日、還暦などを迎えた利用客がいた場合、スタッフが主導して、船全体で祝う。
屋形船の運航は約3カ月の営業自粛期間を経て、5月28日に再開した。東京都が屋形船を飲食店と定義し、自粛要請を解除したためだ。
運航再開後は「新型コロナウイルス対策強化が集客につながる」と考え、一部メディアが報じたネガティブなイメージの払拭に力を注ぐ。
乗船場の入口には水成二酸化塩素を乗船時に噴霧する除菌ゲートを設けた。アルコール消毒液による手指の消毒も要請している。
屋形船の各テーブルとトイレには、同液の小型の噴霧器を設置。屋形船の入口には同様の大型噴霧器を置いている。船の手すりなどは随時、アルコールで消毒するようにした。窓も開け、換気に努める。座席はソーシャルディスタンスを保つことができる配置にした。対策は同社のホームページで公開し、利用客の安心につなげている。
伊東女将は「新型コロナウイルス対策に終わりはない。これからも、さまざまな対応をして参ります」と力を込める。
リピーター（ファン）は船清への思い入れが強く、利用を再開しつつある。……
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