「味のある街」「アングレーズ・アブリコ」――PAUL神楽坂店(東京都新宿区)
2020年7月4日(土) 配信
お神楽の音が響く街ということから名づけられたといわれる神楽坂。大久保通り交差点から外堀通り交差点までの坂を指すが、それほど長くも広くもない坂道には900軒近い店がひしめくように立ち並ぶ。
距離にして700㍍ほど。粋な石畳の料亭街があったかと思えば、フランス料理やイタリアンの店、評判の中華まんの店にファーストフード店にコンビニエンスストア。食器屋さんに老舗のお茶屋さん。病院に学校に不動産屋さん。神社にお寺。文筆家が常宿にしている老舗旅館もある。
夏目漱石、北原白秋、石川啄木、坪内逍遥などの文豪が使っていたという原稿用紙を売る文房具屋さんは今も健在だ。メインストリートから一歩入れば住宅街が広がっている。
坂の中ほどに人気のパン屋PAUL神楽坂店はある。カフェのイートインスペースもあり、クロワッサンが美味しいと評判の店だ。この界隈に多く暮らすフランス人御用達の店でもあるという。モダンで清潔感あふれる店内は常に満席状態だ。
ガイドブックを抱え込み、うれしそうに語らう女性客はもちろんのこと、仕事帰りのサラリーマンや、カップル、ご近所の方まで幅広い客層から支持されているのがよく分かる。目と香りで楽しめるこの店では、焼き上がる際のフランス産小麦の香りと、フランス直輸入のヴィエノワズリ(クロワッサン類)の発酵バターの香りで異国情緒も味わえる。
数あるパンの中でも、人気はフランス直輸入の発酵バターを使用したクロワッサン。サクサクの食感が美味しいと評判だ。新鮮な具材をフランスパンやクロワッサンに挟んだ惣菜パンも人気だ。濃厚な古典菓子がショーケースに彩りを添えている。
私のお気に入りは、ここに行儀よく並ぶ「アングレーズ・アブリコ」というパイ生地仕立てのフルーティーで上品な洋菓子的パンだ。3等分にして、一切れは、そのまま食べる。2切れ目はオーブンで軽く焦げ目をつけていただく。
最後の一切れは、冷凍にして明日の楽しみに。というのが私のいただき方である。さて、皆さんはどうやって召し上がるのかしら。
(トラベルキャスター)
津田 令子 氏
社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。