「観光革命」地球規模の構造的変化(225) 民族共生象徴空間の開業
2020年8月5日(水) 配信
今年1月にコロナ禍が生じてから暗い話題ばかりの日本で、ようやく明るい話題が生まれた。それは北海道白老町ポロト湖畔に整備中であった「民族共生象徴空間」が7月12日(日)に開業したことだ。
日本では未だに「日本は一民族国家」と主張する国会議員が存在するが、昨年4月に「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」が制定され、北海道などに居住するアイヌ民族が初めて法的に「先住民族」として明記された。
アイヌは独自の言語、文化、歴史を有する先住民族で、かつては本州北部、北海道、樺太、千島列島に居住し、狩猟、漁撈、採集、農耕を行い、周辺民族と交易を行っていた。
しかし日本の近代化の過程で、母語であるアイヌ語や先住民族としての基層をなす文化の継承が危機に瀕しており、その復興が急務になっている。民族共生象徴空間は存立の危機にあるアイヌ文化の復興・発展の拠点として、先住民族の尊厳を尊重し、差別のない多様で豊かな文化を持つ活力ある社会を築いていくための象徴となる空間である。
政府は約200億円の国費を投じて「民族共生象徴空間(愛称:ウポポイ)」を整備。「ウポポイ」は「(おおぜいで)歌うこと」の意。ウポポイは、北日本初の国立博物館となる「国立アイヌ民族博物館」、伝統的なコタン(集落)を再現して多様な体験プログラムを楽しめる「国立民族共生公園」、アイヌ民族の遺骨を納めて慰霊を行うための「慰霊施設」などから成る。
ウポポイは札幌から約1時間、新千歳空港から約40分の好アクセスで、政府はウポポイへの年間来場者数100万人達成を目指している。しかし、ウポポイを運営する公益財団法人アイヌ民族文化財団は、コロナ禍のために国立博物館への入館制限を行っており、見学希望者はあらかじめインターネットで来場日時の予約が必要。コロナ禍以前に政府は「訪日外国人旅行者4千万人達成」を掲げていたので、ウポポイにも数多くの外国人ビジターの来訪が想定されていた。
政府はコロナ禍で冷え込んだ観光需要の喚起策として「Go Toトラベル」を7月22日(水)に開始したが、首都圏を中心にしてコロナ感染症が拡大し、予断を許さない状況の中での「ウポポイ」開業となった。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。