「提言!これからの日本観光」 “(都府)県境を越える”
2020年8月23日(日) 配信
新型コロナウイルス蔓延防止のため、最近数都府県が「都府県外への外出は自粛するように」との強い呼び掛けを繰り返し行った。
この自粛要請には疑問を禁じ難い。何故ならば、「県境などどこにあるのか、日常生活ではほとんど意識しないことが多い」からだ。とくに、大都市圏では「県境などを越える外出」をしないと、日常生活・社会生活に支障する人々も多く、改めて地図を持ち出して、どこに県境などがあるのか調べて愕然としたという話も聞いた。以前はJRの駅名標に県市名などを掲載していたが、首都圏や近畿圏などのJRは必要性が薄いとして、今は削除している。
また、以前鉄道沿線の敷地外で多く設けられた野立広告の県境表示もまったく見かけなくなった。それほど日常生活の行動範囲は県境とは関係なく広がり、新幹線などは短時間で2、3県境は通過する。航空機での旅行は県境などを意識すれば、成立しない。
このような要請は県などの首長(及びその周辺)が自らの権限の及ぶ範囲を意識するあまり、発出すると思われてならない。自分の県などの狭い範囲で昔の殿様のような気分になっているのではとさえ思えてくる。
さらに、他県から「自県」を守る意識が強いあまり、このように呼び掛けているのではないかとも思う。
最近、某県の首長が隣県との往来自粛を要請した際、「自粛を要請した県とはまだ連絡していない」と発言。隣県の首長が当惑したような表情で「おおげさだ!」と、直後の会見で批判していたのをテレビで観た。両者の縄張り意識をそこに感じざると得なかった。交流自粛は観光にとっては致命的なことである。
また、狭い県内だけでコロナウイルス蔓延防止などできるものではない。外出自粛を求められる前に県内の実情を振り返って、科学的、医学的な対策や、その体制整備に隣県とも協力し合って進めることこそ肝要だと思う。何か戦場の大将のように妙に高揚して県外への移動自粛を叫ぶのをみると恐怖感さえ覚えるほどだ。
近年、観光は県境をあまり意識せず、各県の連携によって広域的に進められるようになってきている。そこに「県境を越えた外出自粛」が叫ばれると、一般市民は当惑せざるを得ないのである。コロナ対策も国をあげて、また、近県同士が連携し進めて、はじめて効果があると考えられる。
そのような時に出される都道府県レベルでの「不要不急」の外出自粛は、あくまで広域的にかつ検査態勢はじめ、医学的防疫対策等を含む総合施策の一環として発出すべきものと思う。府県別から脱皮して、今日のような世界的大流行に際しては、国が統一した強力な施策を全国的に打ち出すべきではなかろうか。
今次のコロナ対策から、狭小な国土を47都道府県に細分化することの是非、地方自治とは何か、そして、その範囲権限は、非常事態の際も含めて如何にあるべきかを改めて見直す必要を痛感する。
日本商工会議所 観光専門委員会 委員