「街のデッサン(233)」メディカル・リゾートコンプレックスが日本を救う 医療崩壊を観光資源で支える
2020年9月5日(土) 配信
ここにきてコロナ感染はなかなか収まりそうもなく、第2波、第3波と呼ばれるような拡大傾向を見せている。社会最大の心配事は、医療崩壊である。
小池東京都知事は、テレビに顔を出すたびに「大丈夫なように重篤患者から陽性者までの収容容量を用意している」と言っているが、毎日何百人の感染者の数値を聞くと、素人目でも近いうちにベッドやホテルの部屋が底を突き、東京だけでなく全国の医療システム破綻の危惧を感じる。医療関係者の疲弊は極限に達し病院経営は行き詰まり、ボーナスをもらえない看護者は造反する。しかし、この状態を救おうとする手立てはどこにも見当たらない。
そんな時に頭に浮かぶのは、経済学者・宇沢弘文先生の「社会的共通資本」という考え方だ。宇沢先生は「社会的に大切な機能は、市場原理ではなく行政や民間がしっかり手を組んで、社会的共通資本として運営管理していくことが必要だ」と言い続けてきた。その最大の対象になるものが「医療」と「教育」である。東京や大阪などの大都市から地方の中小都市まで、既存の病院やホテルに声を掛けて地域医療を支えるだけでは、とても対応できない状態が近い。いま必要なのは国が先導し、社会インフラとして全国的に医療システムと施設を既存資源活用に併せ、地域パッチワークとして構築していくことではないだろうか。
かつて北九州市に末吉與一氏という名物市長がいた。当時の建設省から転出し、重厚長大型の産業集積を米国のピッツバーグをモデルに、環境再生産業など先端産業都市に変貌させて名を馳せた。私は北九州市のコンベンション都市構想を手伝い、末吉市長に知己を得ていたが、ある時市長から「この市は、実は病院とベッド数では人口当たり日本一。それら資源を事業活用できないか」と相談された。私が出した解は「メディカル・リゾート複合体(MRC)」構想であった。
メディカル・リゾートとは、健康検診や長期の病気療養を地域の観光資源と協奏させ、高度な医療技術を受容しながら時を過ごす医療観光共創都市の構想。その系譜に日本の湯治場、ドイツの温泉療養を主体にしたクアオルトなどがある。現代ではシンガポールが医療ツーリズム都市を目指している。日本の何カ所かに、観光保養地などをベースに長期でコロナなど感染性の強い病気でも、完璧な自立疫学態勢で対応するリゾート複合を創出する。この構想は、知恵を絞り目前の社会崩壊と難儀する観光地を救済するものだ。
コラムニスト紹介
エッセイスト 望月 照彦 氏
若き時代、童話創作とコピーライターで糊口を凌ぎ、ベンチャー企業を複数起業した。その数奇な経験を評価され、先達・中村秀一郎先生に多摩大学教授に推薦される。現在、鎌倉極楽寺に、人類の未来を俯瞰する『構想博物館』を創設し運営する。人間と社会を見据える旅を重ね『旅と構想』など複数著す。