「観光革命」地球規模の構造的変化(226) コロナ不況と観光振興
2020年9月3日(木) 配信
内閣府が8月17日に公表した4~6月期の実質国内総生産(GDP)速報値は国民に不安を与えている。速報値は年率換算27・8%減で、リーマンショック後の2009年1~3月期の年率17・8%減を超えて戦後最悪のマイナス成長を記録。コロナ禍で個人消費を柱とする内需と輸出などを柱にする外需の両面が総崩れした。
政府はGo Toキャンペーンで消費を喚起し、補正予算で計上した10兆円の予備費を活用して内需主導の景気回復をはかっている。しかし、連日1000人を超える国内感染の拡大が続き、経済活動の抑制による倒産や失業の増加が危惧されている。
政府の観光支援事業「Go Toトラベル」は7月22日(水)の開始から1カ月間の利用者数が延べ約420万人で、当初想定の5割弱に留まっている。同事業では、1人当たり1泊2万円を上限に旅行代金の半額相当を補助している。補助総額は1兆1248億円で、来年1月末までの期間中に1カ月当たり約900万人の利用が想定されている。
評論家の大前研一氏は「Go Toキャンペーンは旅行業界の経営力を奪う『世紀の愚策』だ」と強く批判している。経営者は本来「自分で自分のサービスに対して適正な価格をつける」べきであり、宿泊料金やサービス料金に税金を注ぎ込んで企業を補助金漬けにすることで、旅行業界の基礎的な経営力を失わせて自立を妨げると批判している。
また、キャンペーン事業は旅行会社が催行するパック旅行や手配旅行に限定されている点も厳しく批判している。大前氏はポスト・コロナに向けて、「日本の旅行業界は価格、サービス、パッケージについて、まず日本人の国内旅行を一から組み直すべきだ」と主張している。
大前氏は「コロナ禍は日本の観光・旅行産業を本質的に改革する千載一遇のチャンス」と捉えている。正にその通りであるが、長年に亘って築き上げられてきた日本の観光・旅行産業の基本構造を改革することは、容易ではない。先ずは「持続化給付金」や「雇用調整助成金」などで経営基盤の立て直しをはかる必要がある。
されど、ポスト・コロナにおける日本観光・旅行の在り方は大きな変化が想定されており、今後10年くらいかけて観光・旅行業界の大きな改革を推進することが不可欠になるだろう。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。