「観光人文学への遡航(3)」 Go Toキャンペーンと自由
2020年9月21日(月) 配信
自由とは何だろうか。
当初はコロナ収束後の施策として発案されたGo Toトラベルキャンペーンが収束を待たずに開始された。
コロナ禍においても、自分が旅行に行きたいと思ったら、その気持ちに従って旅行に行くのは、一見自由な行動のように思える。
キャンペーン開始が告知された直後、東京から再び感染が広がり、東京都発着の旅行は割引対象の除外とされた。そこで、すでに予約を入れた東京都民がキャンセルし、その場合の取消手数料を誰が負担するのかで揉めに揉めて、結局公費で負担することとなった。
旅行に行くことにしていた人が、キャンペーンの割引が受けられなくなったことでその旅程をキャンセルし、手数料の支払いを巡ってトラブルになる。これは、自由な行動を取っているようで、実はまったく自由がない。外部環境に翻弄され続けているからだ。
普段接する学生たちを見ていても同じ現象が起こっている。
私のゼミは厳格な規律を求めているので、自由がないと言われている。電車の遅延も、教科書を忘れたとき他人から借りることも許さない。教室の後部座席に座ることも許さない。いつも最前列だ。自由を求める学生たちは島川ゼミを敬遠する。
しかし、私のゼミを敬遠した学生が、皆大空を羽ばたく鳥のようになんの既成概念にもとらわれず真理の探究をしているかといえば、それには程遠い。
マイケル・サンデルは言う。「動物と同じように快楽を求め、苦痛を避けようとしているときの人間は、本当の意味では自由に行動していない。生理的欲求と欲望の奴隷として行動しているだけだ。欲望を満たそうとしているときの行動はすべて、外部から与えられたものを目的としている。この道を行くのは空腹を満たすため、あの道を行くのは渇きを癒すためだ。」
教室で講義の最中居眠りをするのは自由なのではない、単に睡魔に服従しているだけだというわけだ。
このような自由のあり方に関しての見方は、すでに約250年前から主張されている。マイケル・サンデルが紹介したこの考え方は、近代哲学の泰斗であるカントの主張である。カントは自由を厳格にとらえている。彼は自由とは「自律的に行動すること」とみなしている。自律的とは、自分以外の者が下した決定に従って行動するのではなく、自分で定めた法則に従って行動するということである。
そんななか、Go To トラベルCPに東京発着が含まれるようになることが発表された。こうやって国民を翻弄するのは、実は国民の自由を意図的に奪っているのだ。
自由が奪われることに対して、たとえ目先に金をちらつかせられても、毅然とした態度で断る勇気を持つべきである。
コラムニスト紹介
神奈川大学国際日本学部・教授 島川 崇 氏
1970年愛媛県松山市生まれ。国際基督教大学卒。日本航空株式会社、財団法人松下政経塾、ロンドンメトロポリタン大学院MBA(Tourism & Hospitality)修了。韓国観光公社ソウル本社日本部客員研究員、株式会社日本総合研究所、東北福祉大学総合マネジメント学部、東洋大学国際観光学部国際観光学科長・教授を経て、神奈川大学国際日本学部教授。日本国際観光学会会長。教員の傍ら、PHP総合研究所リサーチフェロー、藤沢市観光アドバイザー等を歴任。東京工業大学大学院情報理工学研究科博士後期課程満期退学。