生産性白書を発行 設立から65周年 改めて生産性向上の必要性説く 日本生産性本部
2020年10月1日(木) 配信
今年3月に創立65周年を迎えた日本生産性本部(茂木友三郎会長)は9月18日(金)、「経済社会のパラダイムシフト 生産性運動の新展開~コロナ危機を超えて~」と題した「生産性白書」を発行した。同本部は、「生産性向上の必要性と意義は創立当初以上に高まっている」との見解を示し、第1部は日本の生産性の現状把握をもとに「先端的なイノベーション促進への挑戦」など8つの提言をまとめる。第2部は、生産性向上のカギとなる論点を分析・検討した。【馬場 遥】
白書によると、同本部設立(1955年)時の日本の国内総生産(GDP)は8兆3700億円、労働生産性(1人の就業者が1時間で生み出す付加価値額)は88円だった。2018年になるとGDPが550兆円と、55年の66倍の規模にまで拡大し、労働生産性も4853円と飛躍的な上昇を遂げた。
一方で経済成長率は低下していく。95年のピーク時には米国に次いで2位(18%)と世界経済に占めるGDPシェア率において存在感を示した日本だったが、中国との差が拡大していき18年時点で6%まで落ち込んだ。90年代以降の「失われた20年」においての経済成長率低下の原因として、同本部は「生産性の低迷にある」と指摘する。
□労働生産性は36カ国中21位
日本の労働生産性は上昇傾向が続いているものの、主要国の中で必ずしも高い水準にあるわけではなく、18年では、OECD加盟36カ国中21位(46・8㌦)となり、平均56・1㌦を下回った。
経済規模、産業や社会構造が日本と似ている8位のドイツ(72・9㌦)は、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)を活用して生産を効率化する「インダストリー4・0」に取り組んできたことや、格差を拡大させることなく労働市場の規制緩和を進めてきたことが、労働生産性を高める要因になった。
同本部は諸外国の取り組みが「日本にとって参考になる」と考える。
日本の生産性の低さの原因について「質の高さに見合った価格設定ができない」「AI、ビッグデータなどの活用がいまひとつで、ICTの利活用ができていない」と考察した。
「日本経済や日本企業の存在感の低下は、イノベーションが日本で起きにくくなっていることと関係している」との認識を示す。
また、企業経営幹部を対象に取ったアンケート調査(18~19年実施)のデータを例に挙げ、「イノベーションのリスクを取ることに消極的」である理由に、「失敗が許されにくい企業風土」「手続きや会議が多く意思決定が遅い」など問題点を洗い出す。「リスクを取り、失敗を許容する企業風土への転換は、経営革新の根幹だ」と主張する。
□サービス革新と柔軟な価格設定を
「価格形成と生産性」については、日本サービス対象を受賞した高級寝台列車「ななつ星」を例に取り上げた。料金が数十万と高額であるにも関わらず、予約が取りにくくなるほど需要が高かったことから、日本の消費者には、「質の高いサービスへの支払意思がある」とした。ニーズに合致した良いサービスには、それに見合った価格設定ができていると分析。
これに関連して、高需要のときには価格を引き上げ、低需要の時には価格を引き下げる「ダイナミック・プランシング」などで、柔軟な価格設定を通じてサービス産業の生産性を高める余地があると提言する。
65周年の節目を迎えた同本部は、「本書が今後の生産性改革のあり方に関する議論のベースとなり、生産性向上の道のりへの羅針盤となれば」と期待している。
□書籍情報
A4判、173㌻、本体3千円(税別)
問い合わせ=☎03(3511)4007