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〈旬刊旅行新聞10月21日号コラム〉リサイクル “がらくた”が再び世の中の役に立つ

2020年10月21日
編集部:増田 剛

2020年10月21日(水) 配信

マフラーは120円で買い取られた

 長い雨が続き、気分は塞ぎ気味だった。秋なのに、冬のような寒さが周りの景色を一層陰鬱にさせる。私は夏の日にリサイクルショップで買った小説を読んで、週末を静かに過ごそうと思った。

 
 針のような細い雨を窓から眺め、文庫本を開く。1章を読むと、眠くなる。ウトウトして、窓の外に目をやると、相変わらず雨が降り続いている。そのような繰り返しで夜を越えて、朝が訪れた。

 
 雨はやんでいた。気温が上がらず風は冷たいが、眩い太陽の日差しが目に入ってきた。「今日はバイクに乗って、五感を研ぎ澄まし秋の日の美しさを感じよう」と布団から抜け出した。

 

 
 食パンをトースターでこんがり狐色に焼く。私はしっかりと焦げ目をつける派だ。

 
 スライスした瑞々しいトマトとレタス、ハムを挟んで、たっぷりとマヨネーズをかけてかぶりついた。

 
 ミルクをたっぷりと入れた熱いコーヒーが胃に染みわたる。 「なんて素晴らしい朝だ」と誰に言うでもなく、呟いた。

 
 2枚目のトーストも再びかぶりついた。「美味しい。確かに美味しいが、何かが足りない」と思った。しばらく考え、やっと思い出した。芥子だ。これに芥子を足せば、完璧なバランスになる。

 
 私は冷蔵庫を開き、芥子を探していると、洗濯物を干していた妻の不機嫌な声がした。

 
 「ベランダに置いたままのバイクのマフラーを早く捨ててよ」。私は妻が何を怒っているのか、一瞬分からなかった。

 
 それで「何が?」と聞くと、その言葉にキレた妻が「何が?」と声を高めた。

 
 「あぁ、もうだめだ。せっかくの素晴らしい日曜日が壊れていく……」と私は悲しくなってしまった。「どうして真新しい日曜日の朝に、こんな台無しになることを言うのだろう」と、右手に持ったチューブの芥子を眺めながら思った。

 
 断捨離に精を出す妻と、がらくたが増えていく私との間に、数カ月に1度の定期的な諍いが始まってしまったのだ。

 

 
 だが、妻の怒りは納得できた。私の住む市では、バイクの部品は粗大ごみでも回収してもらえない。それで妻は自分のマフラーでもないのに、色々と調べてくれていた。今の時代、がらくたを回収してもらうにはお金がかかる。バイク屋だって、錆びた古いマフラーなんて買い取ってくれない。

 
 私は仕方なく、ベランダに放置したままだったマフラーをクルマの後部座席に放り込んだ。そして運転席でスマートフォンを出して、「鉄・非鉄スクラップ高価買取」と書かれた工場を探し出した。秋の美しい景色を五感で楽しむはずが、私はクズ鉄の山に向かおうとしている。

 

 
 工場は国道246号線沿いの細い道に入ったところにあった。外国人の愛想がいい男が近づいて来たので、「バイクのマフラーを買い取ってほしい」と告げた。男はスマイルを浮かべ、「OK」と言った。受付の紙に住所と名前を書くと、マフラーを重量計に乗せた。デジタルパネルに「5㌔」と出た。私は男から120円と書かれた紙を確認して受け取った。私のマフラーはこれからリサイクルされ、再び世の中の役に立つ。少額だがその価値を認められた。私は120円を握り締め、青く晴れた心地よい秋の空を眺めた。

 

(編集長・増田 剛)

 

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