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大切な現場 ― 経営者は「商品」を把握しているか

2014年3月1日
編集部

 仕事柄、1人で旅館やホテルに泊まることが多い。馴染みの宿であるならば安心感があるが、見知らぬ土地で、初めて泊まる宿の部屋は、ワクワクする気持ちもあるが、それと同じくらいの不安もある。この不安感は多くの旅行者の共通する気持ちではないかと思う。

 電気を消し、いつもとは違う枕に横たわり天井を眺めながら「宿のオーナーはこの部屋で一度でも泊まったことがあるだろうか?」と考える。

 数百室もある大型ホテルの場合、オーナーが各部屋に泊まることは、現実的にあり得ない。では、4―10室程度の小規模旅館ではどうだろうか。それでも、自館のすべての客室で泊まった経験のあるオーナーは少ないのではないだろうか。もちろん、オーナーが自館の客室すべてに泊まる必要などない。

 小規模の宿では、宿主や女将が清掃や最終のチェックを隈なく行うケースも多いが、昼間の時間帯が中心だ。けれど、旅行者が宿で過ごす時間は、圧倒的に夜間や深夜帯である。そうすると、昼間とは違う夜間の冷暖房の効き具合や空調の音、ベッドに寝たときの照明の柔らかさや角度、廊下の話し声や、隣室のテレビの音がどのくらい聞こえるかなどの詳細を確認することはできない。

 おそらく、宿泊客の口コミに書かれた不満や、改善要求に対して経営者が指示することになる。それが一般的だし、それでいいのかもしれない。

 福島県・東山温泉の向瀧では、スタッフが交代で客となって自分たちの宿の客室に宿泊し、スタッフからお客と変わらない接客を受けるという話を以前、平田裕一社長から聞いた。

 一人の客として、この取り組みは心強く、安心感がある。おもてなしの現場にいるスタッフが実際に自分たちの客室に泊まることによって、客目線で不備な点に気付き、それを経営者に強く伝えることができる。客室も商品である以上、宿側が一応、すべての状態を把握したうえで提供しているか、それとも一度も試さずにお客に提供しているか、大きな違いがある気がするが、どうだろうか。

 1面でも紹介しているが、今年から「優秀バスドライバー」の表彰を始めた。2012年4月に関越自動車道で発生した高速バスの事故以来、バスドライバーへの社会の眼差しは厳しくなった。安全に対する意識も高まり、制度も変わった。このような状況で、ツアー客を旅の目的地に連れて行き、安全に旅を終える役割を担うバスドライバーは、バスツアーを企画する旅行会社やバス会社自身にとっても、大きな存在である。だが、彼らはおもてなしの最前線にいながら、表舞台でスポットライトを浴びることはこれまであまりなかった。

 乗り心地や、ブレーキの利かせ具合、ギアのつなぎのスムーズさなどに気を配る自社の大切な“商品”であるドライバーの努力や技術を、経営者は実際にバスの座席でしっかりと把握してほしいなと思う。経営者が現場を知り、現場の人たちをしっかりと評価する姿勢が、結局はお客の安心と信頼を勝ち取ることになると思うからである。

 「優秀バスドライバー」の受賞者たちはすごく誇らしく映った。バスガイドさんと対比して仕事中は寡黙なバスドライバーたち。心の中は何を思っているのか。今後、取材を続けていく予定だ。

(編集長・増田 剛)

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