津田令子の「味のある街」「揚最中」――中里(東京都北区)
2020年11月3日(火) 配信
「贈りたい、贈られたい」東京の手みやげといえば、老舗和菓子店「中里」の看板商品の1つ「揚最中」が思いつく。駒込駅東口から近いアザレア通りに出てすぐの角に、小さな店構えが目に入る。売り場は狭くコロナ禍ということもあり一度に入ることができるのは2人だけ。
旧古河庭園と六義園を訪ねる度に、ここの、この1品を買うのを決まり事にしている。最中の皮を上質な胡麻油で揚げ、北海道十勝産の小豆で練り上げたおぐら餡を挟み、伊豆大島産のやきしおの風味が上品な甘みと絡み合い、味も形も素朴なのに洗練された斬新な和菓子なのだ。創業時より受け継がれてきた技術と伝統が生んだ中里を代表するお菓子といえる。
おすすめの食し方は、オーブントースターで焦げ目がつくまで数分温める。すると最中の皮が驚くほどパリッと香ばしく、お煎餅のように変身し、さらにうまみが増す。ほのかな塩っけと滑らかで甘みのある餡は、絶妙な味わいを作りだし一度食べたら忘れられない。
御菓子司「中里」は、1873(明治6)年に日本橋で、三河屋安兵衛(通称三安)の名称で創業する。1923(大正12)年に駒込に移り営業を続けている。今回紹介した「揚最中」は、3代目鈴木嘉吉が、昭和初期に考案したという。
このほかにも、沖縄産の黒糖を使ってふっくら焼き上げた皮で餡を挟んだ「南蛮焼」が、おすすめだ。北海道産小豆の「おぐら餡」と青えんどうの「うぐいす餡」(期間限定)の2種類。皮のほのかな黒蜜風味と餡の上品な甘みが絡み合う。
さて、オーブントースターから取り出し、香ばしさとともにほどよく焦げ目のついた例のものが、目の前にある。直径5・2㌢と一口サイズなので、大きめに口を開けば、一気に「サクッ」と口に入る。サクッパリッといい音がする。「うわぁ~美味しい」。何度食べても、飽きがこない。引き続き2枚目もお腹に収める。1個186円と求めやすい。
大丸東京店にも出店しているので、帰省や出張帰りに立ち寄ってみてはいかが。株が上がること間違いなしだ。
(トラベルキャスター)
津田 令子 氏
社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。