日本交通公社、「コロナ禍で日本人はどう動いたか」――など発表 旅行動向シンポジウム
2020年10月30日(金)配信
日本交通公社(末永安生会長、東京都港区)は10月27(火)、28日(水)の2日間、第30回旅行動向シンポジウムをオンラインで開いた。
2日目は「コロナ禍の観光動向を振り返る」など3つのテーマを題材に、独自調査や研究成果を発表。コロナ禍での日本人旅行者・旅行市場の動向など、ゲストを招き対談や講演で紹介した。
冒頭の主催者あいさつで同公社会長の末永氏は、「観光を取り巻く環境は楽観視できない状況が続いているが、この期間を効果的に活用してほしい。ウィズコロナ・ポストコロナ時代の観光について、考えを深めていくことが大切」と力を込めた。
(※1日目の内容は以下の記事から)
□コロナ禍の観光動向を振り返る
同公社戦略・マネジメント室長の守屋邦彦氏は「コロナ禍の観光の動向を振り返る」をテーマに、調査成果や観光関連の取り組みを発表した。今年1月以降のコロナ関連の社会的動向、地方自治体や地域事業者の観光分野における対応状況などを解説した。
新型コロナ感染拡大が国内外に大きな被害をもたらしたなかで、守屋氏は「地域のブランド力、つながりを持っているところは危機に瀕しても強いとあらためて感じた。一方で、危機が避けられない状況を想定しなければならない。(同公社では)過去の取り組みも把握し提供していきたい」と振り返った。
□コロナ禍での日本人旅行者を調査
同公社市場調査室長の五木田玲子氏は、「コロナ禍における日本人旅行者の動向」を解説した。
今年1~9月期の国内旅行の発生状況について、「コロナ禍の影響による旅行のとりやめは4~5月がピーク。感染リスク回避が最大の理由で、4~5月は自粛要請の影響が大きかった」と語った。
同期間の国内旅行の実態において、コロナ禍による旅行内容の変更は、活動内容や訪問先が最多となった。訪問先は温泉や自然、域内旅行が増加した一方で、まちなみ・歴史文化・都市など、人が密集する場所を避ける傾向がみられた。
コロナ禍における旅行意識は、7割が旅行意向を示すも、女性・高齢層ほど不安が大きく、旅行意向が低いため、1割弱は旅行市場から欠落する可能性を報告した。
五木田氏の報告と解説を受けて、立教大学観光学部教授の羽生冬佳氏と「コロナ禍における旅行市場の動向~変わらないこと・変わること~」をテーマに、ゲスト対談が行われた。両者はコロナ禍によって、(1)旅行者の年齢層(2)旅行・来訪経験(3)旅行先(4)旅行先での行動(5)旅に求めること――に変化があるかどうか意見を交わし合った。
羽生氏は、これからの旅行は責任やコミュニケーション能力が求められていると指摘。旅行先も生活や自然があり、そこでの感染を拡大させないために、「旅にも能力が必要である。旅行者側も身に付けていく時代になってきた」と強調した。
□過去の経験に学ぶ復興への展望
シンポジウム後半は、「過去の経験に学ぶ復興への展望」をテーマに、2人のゲスト講演が行われた。ゲストは、かまいしDMC(岩手県釜石市)サステナビリティ・コーディネーターの久保竜太氏と、沖縄観光の未来を考える会事務局長の中村圭一郎氏。両者は、観光を取り巻く困難な状況からどのように復興に向けて動き出していったのか、過去の実例を踏まえて紹介した。
久保氏は、釜石市での東日本大震災からの観光復興について話した。「震災後に市が直面した復興課題に対して、行政の人手・専門性不足による公助の限界が大きな課題となった」と振り返る。まちづくり関係者間のミスコミュニケーションが復興を遅らせる要因だったため、コミュニケーションの隙間解消のために釜石リージョナルコーディネーター(釜援隊)の創設、釜石オープンシティ戦略などの策を講じたと明かした。その後、観光地域づくりの新たな局面に向けて、現在のかまいしDMCを設立したと説明した。
一方の中村氏は、兵庫県神戸市出身で阪神淡路大震災に被災して自身も生き埋めを経験した過去を語った。「周りが更地になる『ゼロ経験』を自分自身もした。そういう機会から沖縄に移住して観光産業に従事し、海外で持続可能な観光や観光政策を経験してきた」と振り返る。今回の講演では、観光プロデューサーとして取り組んできた観光コンサルティングとしての活動を紹介した。
講演後は、同公社地域計画室長の中島泰氏を加えた3者で対談を行い、意見を交わし合った。