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まちづくり ― 利己的でなく教養あるリーダーに

2014年3月21日
編集部

 都道府県の知事や市町村の首長が観光PRのトップセールスを行うことが近年増えている。「自分たちのまちの魅力を知ってほしい」という真摯な気持ちが、取材側にもストレートに伝わることが多く、その熱意にほだされて、旅行先として足を運ぶことも実際によくある。これは何も首長に限らず、観光行政の一担当者も同じ。熱を込めて語られる「まちの魅力」についつい引き込まれ、いつのまにかその土地のファンになっていることもたくさんあった。

 いまや観光振興は国、そして多くの地域にとって重要な施策の柱となっている。けれど、国や地方自治体のリーダーを決める選挙では「観光立国」や「観光による地域活性化」を公約に掲げ力強く訴えても、あまり票にはつながらない。選挙で焦点となるのは、身近でより切実な問題であり、観光振興のように短期間で結果が見えるものでない事業を一生懸命訴えたところで、よほどの場合でない限り、地域住民の心に響くものではない。また、選挙では地元の大企業や、有力企業の組織票が、企業の意向に沿った特定の人に流れる傾向もあり、難しい。

 観光やまちづくりを考えるうえでは、建築や美術、音楽、文学、歴史といったありとあらゆる分野の教養が必要である。理想はビジネス的なセンスを持ちながら、これら教養を十分に備えた知性ある人がリーダーとなり、まちづくりの長期的なビジョンを示すことである。

 地域活性化や、観光による地域振興が議題に上がると、有効な取り組みとして最初に出てくる案は、「眠っている観光資源の掘り起こし」などがある。これとセットのように、「でも、うちには誇れるものはないし……」という否定的な回答が現れる。そんなことは絶対にないのだが、もし、誇れるものが簡単に見つからないのであれば、「これだけはやらない」という抑制の方向により大きな力を注いではどうだろう。

 長閑な田園風景には誰の目にも不似合いな大きな工場や倉庫、マンションなどは作らない方がいい。しかし、財政的な面から見ると、大きな産業を持たぬ過疎地域は、都市部の「負」の部分を請け負わなければならない事情もあるかもしれない。たとえ受け入れるにしても、デザインについては地域にマッチするように求めることは、目立たなくても、とても大切なことである。一方、人気観光地には大手チェーン店や不動産会社の食指が動き、魔の手が伸びる。

 自社の利益を最優先する経営者と、街並みや風景の調和に理解の深い経営者との違いがどこにあるか。それは、やはり教養であり、知性である。インバウンド1千万人を突破したグローバル化の時代には、外国人観光客の眼にも、日本の観光地のありのままの姿が晒される。利己的な企業経営者や、教養がまったく感じられない首長が主体となったまちづくりばかりではあまりに味気ないではないか。

 美味しいお米、美味しい魚介類、美味しい山の幸、美味しい果実、美味しい日本酒やワイン、美しい田園風景、美しい市街地の街路樹や花、美しい漁村。これら地域の宝は脆く、壊れやすい。美味しいレストランや、心落ち着く温泉、癒しの宿なども同じく、儚い。これら小さなまちの宝物が、一部の利己的、無教養な人の利益のために、台無しにならないことを願う。

(編集長・増田 剛)

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