「観光革命」地球規模の構造的変化(229) Go Toトラベルの迷走
2020年12月4日(金) 配信
国による観光支援事業「Go Toトラベル」が迷走を続けていたが、政府は11月24日(火)に新型コロナウイルス感染拡大が深刻な大阪、札幌両市内を目的地から一時的な除外を決定した。政府は10月に東京発着分をトラベル事業に加え、それを境にして全国的にコロナ感染が増加し、深刻化している。
政府はGo Toトラベル事業と感染拡大の因果関係について明確な説明を避けているが、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の会長代理を務める国立感染症研究所の脇田隆字所長は「東京発着の旅行がGo Toトラベルに追加されたことで、北海道内の感染状況を加速させた可能性がある」と指摘している。また日本医師会の中川俊男会長は各地の医療提供体制が逼迫しているために、感染拡大地との往来自粛を呼び掛けた。
これに対して、政府はGo Toトラベル事業が菅首相にとって官房長官時代から自民党の二階俊博幹事長と連携して強力に推進してきた看板政策であるために、あくまでも感染防止と経済再生の両立を前提にトラベル事業を堅持し続けた。ところが全国的な流行の第3波を懸念する専門家による政府の対策分科会が「Go To」事業の見直しを提言したことによって、新しい局面を迎えた。
その結果、大阪と札幌を目的地にした新規予約は11月24日(火)から約3週間停止されると共に、国はキャンセル料を負担し、旅行会社などの損害について旅行代金の35%を補償することになった。札幌市では基幹病院でクラスターが発生し、一部で医療崩壊が生じている。北海道は補正予算案で入院病床確保事業に約440億円を計上している。しかし現実には空き病床があっても看護師らが不足していて、受け入れ困難な事例もある。
今回のGo Toトラベル事業の一時停止で、旅行・観光産業の御三家(旅行業・宿泊業・運輸業)は大きな打撃を被るので救済策が不可欠になる。旅行自粛の動きは当然のことながら「外出自粛」の動きにつながり、飲食業・イベント業・商業などにも影響を与えるために経済不況に拍車が掛かる。長引くウィズ・コロナは必然的に日本の旅行・観光産業に根本的な革新を迫ることになる。ピンチをチャンスに変えることのできる才覚が必要不可欠になる。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。