〈旬刊旅行新聞1月1日号コラム〉2021年の観光業界 「アフターGo To」を見据えた対応を
2020年12月31日(木) 配信
2021年の観光業界がどのように動いていくのか、現時点では予測が難しい。20年は東京オリンピック・パラリンピックをはじめ、地域の伝統的なお祭りなどを含め、多くのイベントが新型コロナウイルス感染症によって中止や延期となった。
この流れは21年の年始も、新年賀詞交歓会の中止など、続いている。コロナ収束後も「なくても構わない」という意見が多い会合やイベントは、自然消滅していくのだろう。
そのように考えると、長い間続いている歴史あるイベントや、「老舗」と呼ばれる企業、店舗、旅館などは、刻一刻と移り変わる世相や、数年・数十年に1度訪れる大危機や激変の波を乗り越えてきたのだと、敬意を表したくなる。
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Go Toトラベルキャンペーンは20年12月28日―1月11日までの停止が決まった。観光業界は旅行キャンセルの嵐となり、大混乱に陥った。Go Toによって、多くの観光業界は救われたが、「旅行の割引が停止になれば、こんなにも一斉にキャンセルになるのか」という現象に、少なからずショックを受けたのではないだろうか。「安い」「割引」「お得」が、コロナ禍にあっても多くの人を動かす原動力になるということを改めて認識させられた。
日ごろの地道な努力による品質向上では、数年の時を待たなければ努力の成果が明確に見えないが、Go Toでは瞬時にして満室になる怖さも垣間見えた。
しかし、Go Toはあくまで一時的な観光復興支援策である。6月末までの延長も予定されているが、いずれ終了してしまう。言葉は悪いが「麻薬」である。惑わされぬ強い精神力が必要だ。
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多くの旅館や旅行会社、バス会社が、国の政策1つで経営が翻弄される状況は好ましくない。Go To割引で訪れた宿泊客に「これまでと客層が違う」と困惑の声も聞こえる。
石川県・和倉温泉「加賀屋」の小田與之彦社長は「今まで来館されなかった若い世代が増えた。せっかく来てくれた新しいお客様にこれからもお越しいただけるよう、旅館の魅力を精一杯伝えていきたい」と話す。「アフターGo To」を見据えた対応は、さすがだなと感じた。
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多くの人は、自らの移動がコロナ感染のリスクを高めてしまうことは、百も承知だ。移動するときには、感染に対して相当に気を遣っている人がほとんどだと思う。これは、旅人(客)として最低限の礼儀である。訪れる地に対して敬意と礼儀なき者は、旅をする資格はない。
コロナの感染拡大の防止は最重要課題であるが、一方で、経済活動の死によって命を落とす人たちが1人でも少なくなることも考えなければならない。
リスクを伴いながら経済を支援するGo Toの継続は、微妙なバランスの上でふらふら揺れながら歩く「綱渡り」のようだ。
あらゆる方面に配慮しながら歩を進めるには、高度の技術が求められる。綱の上で一瞬バランスが崩れたとき、奈落の底へ落そうと攻撃の声が一斉に上がる。好むと好まざるとに関わらず、これが現実の世界である。
私たちは知らずうちに、ウィズコロナの生活スタイルに移行している。「アフターGo To」を見据え、新しい価値観への対応を、新年早々に始めよう。
(編集長・増田 剛)