「観光革命」地球規模の構造的変化(231) バイデン政権とグローバル化
2021年1月30日(土) 配信
1月20日に民主党のジョー・バイデン氏が第46代米国大統領に就任した。78歳での大統領就任は歴代最高齢で、副大統領には女性・黒人・アジア系で初となるカマラ・ハリス氏が就任した。新政権の閣僚も非白人と女性を積極的に登用すると共に、オバマ政権で政府高官を務めた人財を要職に配置した。
トランプ前大統領が生み出した「米国の分断」を正常化すると共に、新型コロナウイルス対策と経済再建を成功させることがバイデン政権に課せられた重い責務である。
とくに、トランプ前政権の失政による世界で最悪のコロナ禍の惨状(感染者約2500万人、死者約42万人)をより良く改善することが至上命題になる。コロナワクチンの成果が顕著に挙れば、バイデン政権の求心力は一気に高まることになるが、コロナ禍の沈静化に失敗すれば、バイデン政権に対する不満が一挙に表面化する。
大統領選におけるトランプ氏の得票数は約7380万票で、トランプ人気はいまも根強いと言われている。しかもトランプ支持者の約7割は未だに「大統領選で不正があった」と信じているらしい。
トランプ支持者の多くは、世界の歪みや自らの苦境がグローバル化のせいだとみなしている。一方、民主党急進左派のサンダース上院議員とその支持者も基本的に反グローバリズムである。
つまり右派も左派も共にグローバル化に対して強い不満を抱いており、バイデン政権がグローバル化の方向に進むと、両派から攻撃されることになる。バイデン政権はコロナ禍対策と共に、グローバル化政策についても慎重にならざるを得ないわけだ。
菅首相はコロナワクチンの導入によって、一刻も早くコロナ禍を収束させて、東京五輪を開催し、諸外国からの来訪者を受け入れて、観光立国政策を軌道に乗せたいと考えている。菅首相はあくまでも「2030年インバウンド6千万人」という政府目標を堅持する考えだ。
旅行・観光業界にとってはありがたいことであるが、米国のみならず、世界的にグローバル化を再考する動きが生じている。日本でも、グローバル化の進展を前提にしたインバウンド依存型の観光立国政策を見直して、「ポスト・コロナ時代の観光」に相応しい多様性のある観光立国政策を再構築すべきであろう。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。