〈旬刊旅行新聞2月1日号コラム〉税収が喉から手が出るほど欲しい政府 観光産業への依存は今後さらに強まる
2021年1月29日(金) 配信
2020年の年間訪日外客数は前年比87%減の412万人と大幅に減少した。新型コロナウイルス感染症によるものだが、20年以上前の水準で、私が観光業界と深く関わり始めたころの状態となった。出国日本人数は同84%減の317万人と、1977年レベルまで遡る。
昨年はGo Toトラベルキャンペーンも展開され、苦境に喘ぐ観光業界は一息つくことができた。コロナ対策は最優先課題だが、もはやGDPの約7割を占めるサービス業をはじめ、さまざまな業種の経営者や従業員の雇用維持のために、経済活動を循環していくことも大事である。これまで被災地支援にも「観光の力」が求められてきたが、感染症という目に見えない、やっかいな敵を相手に観光業界の疲弊も深刻化している。
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菅義偉政権では、コロナに対して「国民の命と暮らし、雇用を守る」政策を展開している。ブレーキとアクセルを同時に踏みながらの舵取りは難しく、世界中の多くの国と同様に、分断が生じている。
雇用調整助成金や、休業支援金、家賃補助など日ごとに国や地方自治体の予算が増えていくなかで、将来の若い世代が背負わなければならない負担の大きさを、つい考えてしまう。
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観光だけではなく、多くの産業が大きく収益を落としている。大規模イベントの多くが中止・延期になるなか、電通の自社ビル売却に関するニュースにも驚いた。
コロナ禍がいつまで続くのか予想は難しいが、やがて収束した際に観光産業はどのように動くかにも関心が向く。
インバウンドは2019年に3188万人だったが、この数値をあっさりと突破するほど、門戸を広く開放するだろう。
労働生産年齢人口の減少が加速し、税収維持が難しいなか、GDPの拡大、貿易収支の大幅黒字が喉から手が出るほど欲しい政府は、扉を開けばどっと押し寄せてくる外国人旅行者の拡大を、見てくれも構わずに推進していくはずだ。国策である30年インバウンド6000万人の目標はコロナ禍でも微動だにしない。
観光が日本経済に及ぼす影響が大きくなるにつれて、国は観光に頼り、依存してしまう傾向が今後さらに強くなっていくことが予想される。今回のGo Toトラベル事業はまさにその極端な例として挙げられる。
だが、中小企業には厳しい時代が続く。国の政策方針は、首相のブレーンを見れば、おおよそ見当がつく。竹中平蔵氏やデービッド・アトキンソン氏らの顔が思い浮かぶ。彼らが日々、声高に主張している方向に国は舵を切っていくだろう。
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前回のコラムで、ヒガシヘルマンリクガメを飼い始めたことを書いたが、うちのカメは睡眠時間を除くと、リビングや台所まで元気よく歩き回る。大きな水槽を買ってあげたが、それでも狭い空間にずっと閉じ込めていたら強いストレスを感じてしまうという。自然界では餌を求め、1日に2~3㌔移動することもあると聞く。
私はこの小さな、好奇心の強いリクガメを眺めながら、改めて生き物は「移動する」ものだと、感心しきりだ。過剰な移動制限が長期化すると、人々のストレスは極限まで強くなる。海外ではデモや暴動が発生し、むしろ逆効果を生んでいる。国家間の緊張が高まるおそれもあり、何事も程々がいいのだと思う。
(編集長・増田 剛)