コロナ前後の業務改善・革新は「1人3役」 京都府・綿善旅館 宿泊業の生産性向上シンポジウム②
2021年2月5日(金) 配信
観光庁と日本生産性本部は2月中、宿泊事業者の生産性向上に向けての取り組み事例を紹介する「宿泊業の生産性向上シンポジウム」を計5回行う。2月5日(金)に開かれた第2回シンポジウムでは、京の宿 綿善旅館(小野善三社長、京都府京都市)が「コロナ禍サバイバル コロナ終息後に向けた業務改善・革新の取り組み」をテーマに講演を行った。
同旅館は新型コロナウイルス禍のあおりを受け、2020年2~8月にかけて宿泊客が前年度比から85%減。「宿泊客がぱったりと途絶えた」(若女将・小野雅世氏)なかで、20年5月から今年2月まで、近隣旅館、施設、地域住民と協力し、宿泊業以外でもさまざまな取り組みを行った。
昨年5月には板前弁当を行商にて販売。休校中の子供を預かり、昼食や勉強、遊びの場を提供する「旅館で寺子屋」を企画し、給食や飲食店で提供されるはずだった食材のフードロスの解消に取り組んだ。
立命館大学とのコラボレーションで、旅館で提供する食事を家庭でも楽しむことのできる通販商品を開発した。セットの内容には、綿膳で実際に使っている割りばしや敷き紙なども封入した。
取締役の重見匡昭氏は、コロナ以前からの生産性向上の取り組みとして「1人3役化」を紹介した。
まず、各部門の実態を把握して業務内容や工程を「見える化」した。これにより、どのスタッフをどこに配置できるかが明確になり、どのスキルを優先的に習得させれば良いのかを把握した。
スタッフごとの育成計画を作成し、取得するスキルの目標と、育成支援体制を明らかにすることで、スタッフの動機付けとなり、短期間での能力向上につながった。
マルチタスクの「当たり前」化として、これまで洗い場やフロントなど1カ所のみで行っていた業務を見直し、複数のシフトパターンを構築し組み込んだ。
捨てる仕事の選別として、売店の廃止、アメニティバイキングの採用、食事提供方法の変更を行ったことで、ムダの削減を徹底した。
勤務体制の見直しとして、年間休日を83日から105日(有給取得5日と合わせて110日)まで増やし、週休2日制と同程度の休日数に変更した。シフトの見直しを行い、中抜け勤務状態化の是正をした。
重見氏は「週休2日制を実現するには、マルチタスク化が不可欠だった」と振り返った。
コロナ渦中に行われた全体会議の中で、社員から「顧客満足度の向上」や「業務改善」、「個人のレベルアップ」の3点が重要事項として挙がった。重見氏は、「宿泊客が減少し、時間がある今だからこそ考えられることはたくさんある」と述べた。
最後は、「アフターコロナに向けて、お客様と社員全員の満足度を上げるために日々進化していきたい」と意気込みを語った。